雑司ヶ谷高校 執筆部
バレンタインデー~その4
 僕は小走りで、いつもの待ち合わせ場所のサンシャインシティのマックへ急ぐ。  なんとかたどり着くと、先に待っていた真帆を見つけて声を掛けた。 「遅くなってごめん」 「ううん。そんなに待ってないよ」  真帆は微笑んで答えた。 「じゃあ、ちょっと移動しよっか」  そう言って、真帆は立ちあがって僕の腕を引っ張った。 「どこ行くの?」 「てんぼうパーク行こう」  てんぼうパークはサンシャイン60の展望台。  60階なので景色が良いのだ。  以前も1度、真帆と一緒に行ったことがある。  エレベーターで60階に登り、入場料700円を払って、てんぼうパークに入る。  てんぽうパークは遊びに来ている親子連れが多い。  床に敷かれた人工芝の上で、転がって遊んでいる幼児がたくさん。なんか楽しそう。  さらに中を少し歩く。真帆は僕の腕を組んだままだ。  僕と真帆は、てんぼうパークにあるカフェまでやって来て、前回と同じようにバナナスムージーを購入して、テーブル席についた。  真帆は僕のカバンを見て尋ねた。 「なんか、たくさんもらったんだね?」  カバンのファスナーが開いていて、チョコの入っているのであろう袋とか箱とかが覗いている。 「え? あ、ああ…、なんか、こんなにもらえるとは、全く思ってなかったから」 「モテモテだね」 「いや、ほとんど義理チョコだよ」 「“ほとんど”ってことは、少しは本命チョコも混ざっているってことね」  そう言って真帆は笑う。  まあ、そのとおり。 「純ちゃんって、本当にモテモテだよね」 「全然、そんなこと無いよ」 「いや、そのチョコの数で、“全然”ってことないでしょ?」 「でも、中学のころは1個ももらえなかったので、ちょっと戸惑っているんだよ」 「へー。中学の頃は見る目のない女子ばっかりだったんじゃない?」 「そ、そうなのかな?」 「でも、今、モテてるんだからいいじゃん?」 「ま、まあ…。そうかな」 「私もチョコあげる」  そう言って、真帆は赤い箱を手渡してきた。 「えっ? 真帆はこの前、ライブ終わった後にチョコくれたじゃん?」 「あれは、O.M.G.からの義理チョコだよ。今日のは、私個人から」 「そ、そうなの…? ありがとう」  僕は真帆からチョコを受け取った。  そして、カバンからチョコがあふれ出ないように入れるのが難しい。  真帆はバナナスムージーを一口飲んでから言う。 「ちなみに、“義理”じゃないからね」 「え?」  と、いうことは…、そう言うことだよな。  まあ、真帆が良く呼び出してきて放課後デートしているし、薄々感づいてはいたが。  その後は、真帆は告白みたいなことは言って来ず、他愛のない世間話をしてから、てんぼうパークを後にして帰路に着いた。  帰宅すると、台所で妹とかち合った。  妹は僕の姿を見るといきなり言い放った。 「見せて」 「え? 何を?」 「チョコだよ。今日、もらったんでしょ?」  そして、妹はチョコがあふれ出そうな僕のカバンを見た。 「えっ?! もしかして、そんなにもらったの?!」 「ああ、そうだよ」 「早く見せて!」  妹が迫って来た。  しょうがないので、ダイニングテーブルの上にもらったチョコを並べた。  まず、それぞれ雪乃、毛利さん、赤松さん、伊達先輩、上杉先輩、真帆からもらったもの。  そして、げた箱に入っていたチョコ6つ。  合計12個。  げた箱に入っていたチョコの差出人を確認する。  新聞部の小梁川さん、卓球部の福島さん。  あとは、名前は書いてあるが、顔が思い出せない女子から4つ。  妹は一言、言い放つ。 「スケコマシ」 「なんだよ」 「ホワイトデーの時に苦しめばいいよ」 「え?」 「ホワイトデーのお返し、倍返しが基本だからね! お金が大変でしょ? ざまぁ」  そうだった、ホワイトデーにお返しをしないといけない。  だが、しかし…。 「ホワイトデーに倍返しって、初耳なんだけど?」 「今、私が決めたよ」 「そんなのは却下だ」  妹は、無視するように先日、妹が手作りしていたチョコが入った包みを手渡してきた。 「やっぱり、私もチョコあげるから、倍返しして」 「そんなんだったら、いらない」 「お兄ちゃんに拒否権は無いんだよ!」 「無茶言うな」  僕はチョコを全部抱えて、ブツブツ言って来る妹を無視してダイニングから自室へ。  チョコを改めて机の上に並べる。  このうち、雪乃、赤松さん、真帆の3つは本命。  毛利さんのは、義理疑惑。  伊達先輩、上杉先輩は義理。  そして、げた箱に入っていたチョコだが、これらは義理なんだろうか?  袋や箱を開けたりして確認してみるが、手紙的な物は入ってなかった。  本人に確認する必要があるのかな?  6人にいちいち確認して回るのは面倒だから、相手が何か言って来るのを待つことにする。  それにしても、改めてもらったチョコの数の多さに困惑している。  妹の言う通り、ホワイトデーのお返しも考えなければ。O.M.G.のバイトで稼ぐしかない。  そして、当面のおやつはチョコだな。
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