雑司ヶ谷高校 執筆部
10枚落ち再び
 新聞部の部室を後にした僕と毛利さんと成田さんは下駄箱で靴を履き替えて、校舎を出た。  そこで、毛利さんが話しかけて来た。 「武田君、この後、暇?」 「うん。暇」 「じゃあ、どこか行かない?」 「うーん、そうだな…」  僕は少し考えを巡らせる。  以前にも行った雑司が谷のレトロな喫茶店が良いか?  いや、ちょっと財布の中身を節約したい。  来月のホワイトデーのお返しが12個分もあるからな…。  そこで、提案する。 「じゃあさ。うちに来ない?」 「うん」  毛利さんは微笑んで答えた。  そのやり取りを聞いて、成田さんが笑いながら話しかけて来た。 「おふたりは、お付き合いをしているんですか?」 「いやいやいやいや。付き合ってないよ」  僕は、そんなことを聞かれると思わなかったので、驚いて否定した。 「でも、簡単におうちに誘うなんて、つきあっているとしか…」 「毛利さんは、しょっちゅう一緒に勉強したりとかで良く来ているけど、付き合ってるとかじゃあないよ」 「へー。そうなんですね」  成田さんは笑っている。  これは、疑っているな。 「じゃあ、成田さんもこれから、うちに来なよ」  僕は誘ってみた。 「えっ?! いいんですか? おふたりの密会を邪魔しちゃ悪いですよ」 「いや、密会じゃないし。僕と毛利さんが、どういう風にうちで過ごしているか見てみると良いよ」 「そうですね…。ちょっと興味があるのでお呼ばれに応じます」  そんなわけで、3人で学校から徒歩5分の自宅にやってきた。  推理大会で少し遅くなったので、妹が先に帰ってきているようだが、鉢合わせると何かと五月蝿いので、3人をさっさと自室に招いた。  成田さんは僕の部屋に入ると、あちこち見回す。  エロい本とかは見えないところに隠しているはず。 「私、男の子の部屋に来るの初めてです」  成田さんは感心したように見回している。 「そんなに見回しても何もないよ」  ベッドと壁の隙間とか覗かないでよ、エロマンガが隠してあるから。 「これは…。将棋盤ですね」  成田さんは机の上に置いてあった、マグネット将棋盤を見つけて言った。 「久しぶりに、一戦どうですか?」  ボロ負け確定なのは、間違いない…。  しかし、折角だから対戦してもらうか。  という訳で、ローテーブルに将棋盤を置いて、僕と成田さんは対峙して座る。  今回も10枚落ちで対局する。  毛利さんは横から見学。  約15分後。  やっぱり、また負けた…。  成田さん、ちょっとは手加減してよ…。  感想戦をやっていると、部屋の扉をノックする音が。 「どうぞ」  僕は答える。  妹の美咲がジュースの入ったコップの載ったトレイを持ってきた。 「お兄ちゃん、またジュース出してないでしょ」 「お、おう…。すまないな」  妹はコップをローテーブルの上に置く。 「毛利さん、こんにちは。そちらは、えーっと…」 「はじめまして、成田と言います」  成田さんは笑顔で自己紹介をする。 「あっ、はじめまして…? 私は、この冴えない男の妹で、美咲と言います…。成田さんって、どこかでお会いしたことなかったでしたっけ?」 「多分、初めてだと思いますけど」 「そうですか…」  妹は首を傾げながら部屋を出て行く。 「じゃあ、ごゆっくり~」  妹を見送った後、成田さんが言う。 「妹さん、あまり似てないですね」  その話は、もういいよ。  その後は世間話をする。話題は来週は試験について。  聞くと成田さんは成績上位者なんだそうな。  頭が良いから、将棋も強いのか…。  しばらく勉強について話をしていると、毛利さんが提案してきた。 「明日か明後日、一緒に勉強しない?」  この土日は、O.M.G.の細川さんたちの東池女子校も試験期間で、その対策勉強でライブはやらないので、時間はある。  なので、その提案に乗った。 「いいよ。じゃあ、明日もうちに来る? それとも、僕が毛利さんちに行こうか?」 「私が、ここに来るよ」 「OK」  そんなこんなで、小一時間ほどして会話が一段落すると毛利さんと成田さんは帰宅していった。  夜、1階の居間で妹と鉢合わせた。  妹が話しかけて来る。 「さっきの成田さんって人、本当に初めてうちに来た?」 「そうだよ」 「どこかで見たことあるんだよなー。どこだっけ?」 「お前の勘違いじゃないのか? それとも、たまたま町で見かけたとか?」 「うーん、そうなのかなー…」  妹はしばらく考え込んでいた。  でも、妹が成田さんを見て『また、新しい女を連れ込んで来た』とか言うかと思ったけど、そんなことなくてよかったよ。  良く分からんが、妹は成田さんのことで悩んでいてくれ。  先ほど、来週からの試験の話も出たし、成績が気になる僕は寝るまで少しだけ勉強することにした。
ギフト
0