雑司ヶ谷高校 執筆部
通い妻
 翌日の午後、勉強をするというので毛利さんと雪乃がうちにやって来た。  早々に僕の部屋に招き入れて、勉強開始。  小一時間は、雪乃が英語と国語の勉強をしたいというので、3人で試験出そうな問題を予測しつつ進める。  さらに、しばらくして、ドアをノックする音が。  どうせまた妹が邪魔をしに来たんだろう、と予想して扉を開ける。  そこには、予想通り妹は居たのだが、その後ろには伊達先輩が立っていた。 「えっ?! なんで、伊達先輩まで?」 「今日は家庭教師で来たのよ」  そうだった、伊達先輩は妹の家庭教師をやっていて、隔週の週末にはうちに来てるんだった。  今日がその日だったのか。 「そうでしたね…。それで、何か用でしょうか?」 「美咲さんが、武田君も誰かと勉強会をしているようだから、って言ったので、ちょっと様子を見に来たのよ」 「そうでしたか…」 「お邪魔しまーす」  妹がそう言うと、妹と伊達先輩は僕を押しのけて、ずいっと部屋に入り込んできた。  そして、伊達先輩は毛利さんと雪乃の姿を見ると挨拶をする。 「あら。毛利さんと織田さんだったのね。こんにちは」 「「こんにちは」」  毛利さん、雪乃も挨拶を返す。 「私も今日は、ここで勉強する!」  そう言って妹は、ローテーブルの空いている1辺に座って、自分の勉強道具を広げた。 「えっ? 狭いだろ?」  僕は文句を言った。 「別に狭くないよ!」  妹は反論する。  それを援護するように伊達先輩は妹に斜め後ろに座って言う。 「良かったら、武田君たちの勉強も一緒に見てあげるわ」 「それは、助かります!」  雪乃が嬉しそうに笑った。 「お願いします」  毛利さんも静かに言う。  やれやれ…。まあいいか。  先週も伊達先輩には歴史研の勉強会で教えてもらったけど、そう言うなら折角だし、今日も教えてもらうか。 「お兄ちゃん」  妹がまだ立ったままの僕を見上げた。 「みんなにジュース出してよ」 「はあ?」 「いつも私が出してあげてるでしょ? たまには、お兄ちゃんが持ってきてよ」  確かにいつも妹はジュースを持って来るが、それは僕の部屋を偵察したいからだろうに。  ここで文句を言ってもいいが、時間が惜しいので何も言わずに1階の台所まで行って人数分のコップにジュースを注いで、自分の部屋に戻った。  ジュースを配ると再び勉強開始。  しばらくは、みんな真面目に勉強している。  伊達先輩は妹に時折問題を出したり、妹からの質問に答えている。  雪乃は毛利さんに質問したり、それでもわからない場合は伊達先輩に質問している。  僕や毛利さんも伊達先輩に質問する。  今日は、妹が雪乃にケンカを売ったりせず、比較的平和な時間が過ぎて言った。  途中、休憩も挟んで夕方となった。  先週と昨日も勉強をして、今日の試験対策もばっちりなので、いい点が取れそうだなあ。多分。  勉強会を終えて、みんなで世間話をして過ごす。 「そう言えば」  妹が口火を切った。 「一昨日も、昨日も毛利さん来てたよね?」 「うん」  毛利さんは答えた。 「えっ? 3日連続? 通い妻みたいだね。ずっと勉強してたの?」  雪乃が驚いて尋ねた。 「昨日は勉強だけど、一昨日はちょっと寄っただけだよ」  毛利さんはちょっと恥ずかしそうに返事した。 「そういえば、一昨日、一緒に来た人、なんて人だっけ?」  妹が僕に尋ねた。 「成田さんだよ」 「成田さん? 誰だっけ?」  雪乃が尋ねた。 「将棋部の成田さんだよ。雪乃、知らないっけ?」 「知らない」  そこへ伊達先輩が割り込んできた。 「そう言えば、成田さんって最近ネットで話題になってるわ。“美人女子高生棋士”って」 「そうだ!」  妹が大声を上げた。 「どこかで見たことあるなと思ったら、YouTubeで見たんだった!」 「そうなの? でも、お前、なんでネットで将棋を見てるんだよ?」 「ちょっと前に紗夜さんが将棋の研究してるって言ってたから、私もYouTubeで将棋の動画を見てみたの。そしたら、その成田さんがプロ棋士と対局している動画があったよ」 「そうなんだ? 知らなかったよ」  そして、上杉先輩がまだ将棋をやっているとは思わなかったな。  もう飽きたと思ってた。  時間も遅くなってきたので、将棋談義はそこそこにして、今日は解散することになった。  帰り際、玄関で雪乃が僕に耳打ちした。 「最近は、歩美が通い妻してるみたいだけど、3月になったら例のショートムービーの撮影もあるし、純也を貸切るよ」 「いや、たまたま連続で毛利さんが来てただけで、通い妻って言うほどのもんじゃあないよ。今日だって雪乃が勉強会しようって言わなかったら、来てないわけだし」 「理由はともかく、私も負けてられないから」  なんか雪乃の闘争心に火が点いたみたいだ。
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