雑司ヶ谷高校 執筆部
ドラゴン
 週が明けていよいよ試験期間が始まった。  木曜までの4日間は試験漬けである。  とは言え、大体午前中に試験は終わり、早く帰宅出来る。  家で少しのんびりできるので、試験期間が嫌いという訳では無い。  そして、1日目の試験が無事終わった。数学と化学と国語。  結構、試験対策の勉強をやったので、それなりの手ごたえを感じていた。  帰宅しようと席を立ちあがると、雪乃が声を掛けて来た。 「また、一緒に勉強しよう! 明日の英語が不安だし」 「え? 昨日も英語の勉強したじゃん?」  昨日の試験勉強は英語と国語をみっちりやっていた。  伊達先輩にも教えてもらったし。  もう十分じゃないか? 「いくら勉強しても、足りないってことは無いのよ」  雪乃は僕の返事に少々不満そうに言う。 「まあ、完璧を目指すのは悪い事じゃないと思うけど…」  そして、英語であれば僕より毛利さんのほうが成績が良いので、毛利さんにも声を掛けておこう。 「毛利さんも、来る?」 「うん、行く」  毛利さんもそう言って席を立った。  という訳で3人そろって、またまた僕の家にやって来た。  昼ご飯にみんなでカップ麵を啜って、すこし休憩したら僕の部屋に移動して勉強を開始する。  いつものようにローテーブルを囲んで座る。  僕は雪乃に尋ねた。 「最近、勉強に気合入っているけど、なんで?」 「だって、2年は成績順にクラス分けされるっていうじゃん?」 「そうだね」 「成績上げて、純也と一緒のクラスになりたいじゃん?」 「えっ?」  そう言う理由で勉強を頑張っているのか。  確かに雪乃の成績は今一つだったはず。  いつだったかの試験では、160人中110位だったような。 「純也も文系志望でしょ? だから、2学期の期末から理系の勉強を捨てて、英語と国語を頑張ってるのよ」  確かに、前回の期末、理系の勉強について質問してこなかったな。そういうことか。  国語と英語を頑張るのは良いのだが、数学や理科を捨てるのはどうなんだろう?  と、少々疑問を感じつつも、これは雪乃のことなので彼女の好きなようにさせてあげよう。 「大体、中の上の僕の成績だと、2番目のクラスになりそうだな…。毛利さんは文系の成績は良いから、1番の文系クラスになるんじゃない?」 「うーん、そうなのかな?」  毛利さんはちょっと不安そうに答えた。 「毛利さんならきっと1番のクラスだよ!」  雪乃が励ますように、そう言った。 「僕も、そう思うよ」  ということは、やっぱり毛利さんとは2年では同じクラスになりそうにないなあ。  そして、雪乃が僕と同じクラスになるのに失敗したとする。  悠斗は成績はあまりよくないし。  ということは、良く話をする人たちが誰も居なくなるな。  2年は、やっぱりボッチ確定なのか…。  まあ、いいけどな。中学の時は、ほぼそんな感じだったし。  まあ、こればっかりはしょうがない。  僕の不安をよそに、雪乃は熱心に勉強に取り組んでいる。  時折、毛利さんに質問したりしている。  僕も勉強をして過ごすが、これだけ勉強したら、かなりいい成績が取れるのでは?  なんやかんやで2時間程経って、妹が帰宅してきた。例によって茶々を入れに僕の部屋にやって来る。  妹は、トレイの上にジュースを4つ持ってきた。  4つ? 妹、居座る気なのか…。  妹は、ローテーブルの空いている一辺に座ってジュースを並べる。 「皆さん、連日大変ですねー」  妹は愛想笑いをしつつ言う。 「試験期間中だからな。高校生は大変なんだよ。それで、何で居座るの?」  僕は妹が何を言ってくるのか、戦々恐々。  雪乃にケンカ売ったりしないだろうな。  妹は僕の質問を無視するように尋ねて来た。 「お兄ちゃん、最近は成績はどうなの?」 「まあ、いつも通りだよ」 「結構、勉強している割には、いつも中の上の順位だよね?」 「しょうがない、地頭が良くないんだろう」 「ふーん」 「お前も兄妹きょうだいだから、似たようなもんだろ?」 「私は恵梨香さんに見てもらっているから、お兄ちゃんの中学の時より少し成績はいいんだよ!」 「あ、そう」  妹の成績はあまり興味がない。  でも、妹の成績が良くなりすぎて、僕の中学の頃と比較されてしまったら、肩身が狭くなる。  それに、妹に妙なマウントを取られてもウザいしな、成績を上げるのはほどほどにしておいて欲しい。  他にも15分程、世間話をしたら妹は去って行った。  続けて、3人で世間話をしている。  すると、僕の机の上に置いてあったVRゴーグルが雪乃の目に留まったらしい。 「これなに?」  雪乃は質問をしてくる。 「それは、VRゴーグル。それでゲームとかできるんだよ」 「へー。ちょっとやってもいい?」  僕のスマホで例のVRMMORPGのアプリ立ち上げ、スマホをゴーグルに挟んで雪乃に手渡した。  雪乃はそれをかぶる。 「へー。凄いね」  雪乃は画面の綺麗さに感心している様子。 「ちょっとやって見て良い?」 「もちろん」  僕は移動のためのリモコンを手渡した。  雪乃はしばらくゲームをプレイしている。 「街から出るね」 「お、おう」 「おっ!」「ああ!」  などと声を上げてゲームを楽しんでいる様子。  敵を倒しているのか?  ゲーム内での剣の使い方をすんなり覚えた様子で、リモコンを振り回している。 「ちょっと進むね」 「大丈夫なの?」  敵に遭遇しつつも、なんやかんやで前に進んでいる様子。 「あっ、なんか凄いの出て来た」 「えっ?」 「ドラゴンみたいなやつ」 「えっ?」  それって結構、強敵なのでは?  かなり、奥地に進んでしまっているようだけど…。  まあ、すぐに、やられるだろう…。 「えいっ! えいっ!」  しばらく、格闘している。  そして、雪乃は 「あっ!」  と大きく声を上げた。  やられたか? 「ドラゴン、倒したよ」 「ええっ!?」 「いやー。ストレス解消に良いね、これ」  そう言って、雪乃はVRゴーグルを外した。 「ワープのアイテムで、最初の街に戻っておいたからね」 「お、おう。ありがとう…」  こんな短期間でゲームを習得するとは。  雪乃は確か運動神経がいいから、こういう身体を動かしてやるゲームも合っているんだろうか?  しかし、話をすると雪乃は演劇のほうが忙しいから、ゲームをさほどやる気はないらしい。  夕方になったので、今日はこれぐらいにして雪乃と毛利さんは帰宅していった。
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