雑司ヶ谷高校 執筆部
モルデン
 私とオットー、ソフィアの三人は盗賊に襲われた現場から、二時間と少し掛けて、モルデンに到着した。モルデンは、旧共和国では第三の都市であった。街の南西側に大きな穀倉地帯が広がり、歴史的には最初は農業で栄えていた。帝国との国境も近かったため、数十年前からは、対帝国の為の軍事設備が増えた。そういう理由で軍人や武器製造の職人や技術者、また魔石の取引などの貿易でも人が集まるようになった。そして、この街は二年前の“ブラウロット戦争”で戦場となり、帝国軍の激しい攻撃とその後の略奪で大部分が焼け野原となった。  今は帝国の支配下であるが、帝国はこの街の復興にあまり力を入れていない様だ。もはや戦略的に重要でないと考えているのであろう。戦後から二年、街ではあちこちで復興作業を行っている場所もあるが、まだまだ途上といったところだ。  戦争中に他の都市などに避難した旧共和国住民は多かったが、戦後に移動が制限されたため戻ってこられなかった人々も多いようだ。逆に帝国首都からの多くの出稼ぎ労働者が来ていると聞いている。主に彼らが復興作業に従事しているようだ。街の中央部の政府関係施設を中心に建物などがだいぶ建ち始めているが、周辺部は空き地や瓦礫がそのままになっている場所が目立つ。街壁や城壁は崩れたままのところも多い。住居区域では簡素なつくりの小屋を利用しているのが見えた。 「だいぶ、街の様子が変わってしまった」。  オットーは、まだ復興がままならない街の様子を見て、悲しそうに言った。彼はこの街の出身で、“ブラウロット戦争”では義勇兵としてモルデンでの戦闘に参加した過去を持つ。彼は街が陥落寸前に命からがら脱出できたが、彼の戦友も数多くが犠牲となっていた。その悲しみと怒りは想像に難かった。  早速、先ほど捉えた盗賊の生き残りを、当局に引き渡さなければならない。そのため街の中央部の城へ向う。城も一部崩れたままになっており、ここも復旧が遅れているようだ。城門で衛兵に声を掛け、事情を説明した。その衛兵が、盗賊をそのまま帝国軍の治安部隊に引き渡してくれることになった。  また、モルデン内を自由に動けるように許可書の発行を依頼すると、すぐに発行された。ルツコイにもらった皇帝謁見の命令書を見せたのだが、効果覿面だ。  さて、予定外の実戦と、その後の余計な仕事にかかわってしまったので、少々疲れた。宿を探して休みたい気分だったが、以前、来た時とは街の配置がかなり変わってしまっているので、宿屋を探すのに時間がかかってしまった。オットーでさえ街中がほとんど分からなくなっていたようだ。ようやく着いた宿屋の前で、オットーが話しかけてきた。 「ちょっと街中を見てきていいですか?」。 「構わんよ。明日の朝の集合時間までは、自由に過ごしていい」。  まだ夕暮れ時なので、街を散策する時間は十分にあるだろう。私は快諾した。私も少し休んだ後、情報収集に出かけるつもりでいた。 「私はちょっと体調がすぐれないので、早めに休みます」。  ソフィアは力なく言った。どうやら、先ほど実戦で人を斬ったせいだろう。戦いの興奮が冷めて素に戻ったようなので仕方ない。今後は任務や戦いで人を斬ることも増えるだろうから、あの程度の実戦はできるだけ体験して慣れた方がいいのだが。 「わかった、ゆっくり休んでくれ」。  私は言って、三人は宿屋に入り宿泊の手続きの後、それぞれの部屋へと別れた。
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