雑司ヶ谷高校 執筆部
傀儡魔術
 退役軍人のイワノフの家を後にして、時間は夕方ごろ、私は城の近くの “ストラナ・ザームカ”という名前のレストランで食事を取った。このレストランも大勢の客で賑わっていた。そして、首都での食事は美味い物ばかりだ。ズーデハーフェンシュタットの食事も敗戦国とはいえ、物資が豊富なので、まだましな方だが、食事を含め物資の豊かさは圧倒的にこちらの方が恵まれている。  レストランを出る時、外は暗くなっていたが、街中の松明の数もほかの街に比べて多く、通りを明るく照らしている。  城の部屋に戻り、しばらくしてからだろうか、ドアをノックする音が聞こえた。 「どうぞ」。  私は外の人物に声を掛けた。扉を開けたのはオットーだった。 「お帰りでしたか。昼過ぎに来たら、ご不在だったので」。 「街を見て来て、ついさっき戻ってきたよ」。オットーが部屋に入り、扉を閉めたのを確認した後、言った。「なにか用かい?」 「実は、朝、昨日の翼竜の死体を見に行ったんですが、土になっていました」。  オットーは、やや興奮気味に話し始めた。 「土?」  予想外の話で、私は思わず聞き返した。 「はい、そばに帝国の関係者がいたので、話を聞いたら、昨日、我々が倒した後、しばらくして土になったそうです」。 「どういうことだ?」  私も声が少々大きくなってしまった。 「どうやら、傀儡魔術で作られたものだそうです」。  傀儡魔術は聞いたことがある、しかし、実際には見たことはなかった。あの翼竜がその魔術で作られて操られていたというのか。  オットーが続けた。 「どこかの魔術師によって操られているのは間違いないのですが、どこ魔術師かは全く手がかりがないそうです」。 「今回、初めて翼竜を倒してみて、それが傀儡魔術で作られたものと、わかったということだな」。私は腕組をし、首を傾げた。「操っていたのは帝国に恨みを持っている者か?」。  そうすると、旧共和国の者か、ひょっとしたら先ほどイワノフから聞いた、帝国内部にも現状に反感を持っているものが少なくないとのことだから、帝国の者とも考えられる。しかし、そんな強力な魔術を使う魔術師が、旧共和国や帝国に居るとは聞いたことがない。  強力な魔術師なら、後は、ヴィット王国の者が考えられる。しかも、なぜか最近ヴィット王国の者の話を聞くことが多い。  そういえば、翼竜が飛んでくる方向は、南の海の島にあると聞いている。そんなところに我々の知らない魔術師が潜んでいるというのか?謎は深まるばかりだ。 「あと、午後にアクーニナ隊長と会いました。師と話をしたいと言っていました」。 「アクーニナ?」それが、すぐには誰のことか思い出せなかったが、何とか思い出した。「ああ、皇帝親衛隊の隊長か。何の用だろうか?」 「要件は聞いておりせん」。 「そうか」。私は首を傾げた。「まあ、いいだろう。明日、彼女を探してみるよ」。 「ところで」。私は話題を変えて、オットーに尋ねた。「オットー、君は今日は何をしていた?」 「私は剣の修練をソフィアとやっていました。最初、城の端にある、ちょっとした広場でやっていたんですが、あっという間に帝国兵士の見物人に取り囲まれてしまって。城を離れて、適当な広場でやっていました」。と言って、オットーは苦笑した。 「帝国兵士は、翼竜を倒した我々の剣さばきを見たかったんだろうな」。 「おかけで、私たちは、ちょっとした有名人ですよ」。  オットーはまんざらでもないというような表情だ。  私は昨日の翼竜との戦いを思い起こしていた。 「後は我々もアグネッタから魔術を習った方がいいかもしれんな。実戦で使える魔術がまだまだありそうだ」。 「そうですね」。  オットーは大きく頷いて同意する。  私は念動魔術で空を飛ぶソフィアを思い起こした。
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