昨夜は早く眠ったので、今朝は目覚めがよい。朝食を持ってくる召使いが来る前に起床できた。
今日の午前中は、オットーから話を聞いた一昨日倒した翼竜の死体が土になったという現場を見に行こうと思っている。後は、皇帝親衛隊長のアクーニナが会いたいといっているようだから、会えれば話をしよう。午後は、また街中に繰り出して、街中を流れる川の反対側に行ってみようと思っていた。
外出の支度をし、身なりを整える。しばらくすると、ドアをノックをする音が聞こえた。
「どうぞ」
私が言うと、扉が開いた。召使いのオレガが朝食を持ってきた。
「おはようございます、朝食をお持ちしました」。
オレガは、そう言うと部屋に入り、テーブルの上に朝食を置いた。
「ありがとう」。
と、私が言うと、オレガは私に向き直って話しかけてきた。
「一昨日、翼竜を倒したと聞きました」。
「誰から聞いたんだい?」
私は、ちょっと驚いて尋ねた。彼女からこの話題が出るとは思わなかったからだ。
「他の召使い仲間から聞きました。お城の中ではもう誰もが知っています。これまで、お城の兵隊さんは誰も倒せなかったのに、すごいですね」。
そうか、その話が広まっているのか。あの後、軍の休憩室でほかの兵士達に質問攻めにあったから、おそらく、その兵士達から広がっていったのだろう。
「私だけなく、弟子たちと一緒に倒したんだよ。隣の部屋にいる二人だ。もう会ってるだろう?」
私は笑顔で答えた。オレガは、相変わらず無表情で話す。
「お弟子さんに女の人もいますよね」。
「ソフィアだね。彼女が今回、翼竜を倒した一番の立役者だよ」。
これは言い過ぎではない。彼女の念動魔術がなければ、翼竜は倒せなかっただろう。しかも、私を翼竜の炎から寸前のところで救ってくれた。
「どうすれば、そんなに強くなれるんですか?」
オレガは、私に一歩近づいて尋ねた。
「日々の鍛錬だよ。私は十三歳の時から鍛錬をしている、若いころは特に鍛錬をたくさんやった。ちなみに、ソフィアは十八歳の時に私の弟子になった」。
「私、今、十五なんです。私にもできると思いますか?」
オレガは、瞳を輝かせて、興味津々と言う様子で尋ねてきた。
「できるよ」。
そう私が言うと、無表情だったオレガの表情が少し明るくなったように見えた。
「本当ですか?」
「ちゃんと厳しい鍛錬を続けることができれば、必ずなれる」。
私は力強く言った。オットーもソフィアも、鍛錬に耐え抜いて今があるのだ。
「お弟子さんにも、食事をお持ちしないと」
オレガは、急に思い出したように、そう言うとあわてて扉の方へ向かおうとした。
「今日も、昼食と夕食はいらない」。
私は、後ろから声を掛けた。
「はい。わかりました」。オレガは、こちらを向き直って、頭を下げながら言った。「失礼します」。
オレガは、部屋を出て行った。
そして、私はテーブルに置かれた朝食を取ると、部屋を後にした。