雑司ヶ谷高校 執筆部
討伐
 途中、寄り道をしたのでモルデンへ到着した時は、日も暮れてしまっていた。  この時間は街壁の門は閉まっているはずだが、今日は開いていた。衛兵に通行書を見せて門を開けてもらう手間が省けた。  街の中へ入ると何やら人だかりが見える。街壁に入ったすぐのところで、帝国軍の部隊が集結しているが見えた。  私はその部隊に近づき、その部隊長らしき人に何事か尋ねてみた。 「何かあったのですか?」 「君らは?」  痩せて口髭を蓄えた部隊長は訊き返してきた。 「私は、ズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊でユルゲン・クリーガーと言います。後ろの二人は、オットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインと言います。私の弟子です」。私は敬礼してから続けた。「我々は皇帝の命で首都に呼ばれ、今はズーデハーフェンシュタットへの帰路の途中です」。 「ひょっとして、数日前に盗賊を捕らえたのは君らかね?」  部隊長は私の名前を聞いて驚いたように言った。 「そうです」。 「そうか、君らが捕らえた盗賊から、アジトの情報を得ることができた。これからそのアジトを急襲する」。 「我々も同行してもよろしいですか」。私は間髪入れずに尋ねてみた。「なにかお手伝いできると思います」。 「ああ、構わない」。  私は振り返り、オットーとソフィアに尋ねた。 「どうだ?」。  これはいい機会だ。我々は、実戦の経験をなるべく多く積んだ方がいい。 「行きましょう」。  二人は答えた。  部隊長は馬を兵士達の方へ向けながら彼に付いて来るように合図した。 「では、もうすぐ出発だ。我々に続いてくれ」。  集まっている兵士は二百人ぐらいだろうか。整然と並んでいる。騎兵、歩兵、弓兵に魔術師も数名配備されている。  暫くすると先ほどの隊長が号令を掛けて、兵士が動き出した。我々もそれに続く。  街道をしばらく進み、途中から脇にそれ、林の中に入っていく。歩兵と弓兵を前に、騎兵は少し離れた後ろに続く。我々はさらにその後で、見失わないように兵士達が持つ松明を目印に後に続く。  だいぶ進んだところで、部隊は一旦停止すると、松明を消し、横に展開を始めた。  先ほどの部隊長がいたので、話しかけてみる。 「この後は?」 「この先に盗賊たちが休んでいると、歩哨から聞いている。我々は盗賊を取り囲んでから攻撃を掛ける」。 「敵の人数は?」 「二十人ほどだ。すぐに魔術師が火を放つ、それを合図に攻撃開始だ」。  我々は待機し、暫くすると、正面で火の手が上がった。と、同時に弓兵が一斉射撃を開始。次に騎兵、歩兵が突入する。  我々も剣を抜いて、それに続いた。前方では盗賊の叫び声が聞こえる。盗賊が二名、剣を抜いて我々の前に駆け寄ってきた。オットーとソフィアがそれを斬り倒す。  魔術師が断続的に炎を放っているので、周りは明るく照らされ、状況がよくわかる。盗賊は兵士たちにどんどん討たれていく。  最後に残った数名の盗賊が、最後の抵抗を行なっている。腕が立つらしく、こちらの兵士が数名討たれた。兵士が遠巻きに取り囲んでいるが、迂闊に使づけないらしい。  兵士が四、五名、盗賊に近づくと、彼らの前に炎の壁ができた。兵士たちが後ずさりする。盗賊の中に魔術師がいるようだ。次の瞬間、盗賊の周りに突然、霧が発生した。これは水操魔術だ、目くらましによく使われる。霧で辺りの視界が遮られ、ほとんど見えなくなった。こちら側の弓兵が矢を撃ち、魔術師たちが炎と稲妻を放つ。  霧の中で状況が分からないが、何者かの叫び声が聞こえる。 「私に任せてください」。  ソフィアが何言か呪文と唱えると、林の中を突風が吹き抜けた。これは、大気魔術か。霧が晴れ前方があらわとなった。  残りの盗賊が次々に兵士を倒している。敵の魔術師も腕がいいらしいが、倒すなら今だ。私は手綱を打ち馬を前に走らせた、魔術師はこちらに気づいたが、私の方がわずかに早かった。私は素早くナイフを投げつける。魔術師の胸にナイフが突き刺さり、魔術師は短くうめき声を上げ、その場で倒れた。  オットーが私の後に続き、盗賊の一団に駆け込んだ。槍を持っていた盗賊に切りかかり、何太刀か浴びせかけて倒した。  私も剣を抜いて、馬を降りた。私は別の盗賊に斬りかかる。腕は立つようだったが敵ではなかった、しばらくの鍔迫り合いの後、倒すことができた。  残りの盗賊は、ほかの兵士によって倒されていた。作戦終了だ。  私は、倒した魔術師からナイフを抜いた。そして、オットーとソフィアに怪我はないか尋ねた。二人とも無傷だ。  部隊長は盗賊たちが倒れているのを見回した。  「よし、帰還する。全員、一旦街道まで戻れ」  部隊長が号令を掛けた。我々もそれに続いた。  途中、部隊長が話しかけてきた。 「ありがとう、助かったよ」。 「大したことはしていません」。 「いやいや、あの投げナイフは見事だな」。部隊長は続ける。「君の連れの二人もいい腕前のようだ」。  兵士たちは森を出て、松明を灯し、街道で整列を開始した。 「被害報告」。  部隊長が言うと、数名の兵士が報告をはじめる。我々はその様子を眺めていた。耳に入ってきた報告では、盗賊は全滅。こちら側の兵士も死傷数名、負傷者も数名の被害ということだ。  兵士達の報告が終わると、部隊はモルデンに向かって帰還を始めた。我々三人もそれに続いた。  帰路、我々は今回の戦いについて感想を述べ合ったりしながら進む。  ソフィアは今夜も盗賊を斬ったが、前回ほどショックを受けていないようだ。オットーは興奮冷めやらぬ様子で、戦いの様子をずっと話していた。  モルデンに着くと、部隊長が改めて話しかけてきた。 「ここにはいつまで滞在を?」 「急ぎの旅ですので、明日の朝には出発です」。  隊長はふっと思い出したように自己紹介を始めた。 「申し遅れましたが、私は第四旅団所属のヴラジミール・エルマンスキー。モルデンでは盗賊退治や暴動鎮圧などの治安維持を任されています。今回の君らの活躍は上に報告しておきますよ」。  エルマンスキーは笑顔を見せた。 「ありがとうございます」。  私は礼を言うと、敬礼しオットーとソフィアと共にその場を去った。  ホルツ達との会合と盗賊討伐ですっかり夜が更けしまった。  我々は先日泊まった宿屋に向かい休むことにした。
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