雑司ヶ谷高校 執筆部
帰還
 翌朝、我々はモルデンを出発した。途中、オットーとソフィアに昨夜の盗賊討伐の感想を再度聞きながら、馬を進めた。昨夜の討伐は難しい戦いではなかったが、実戦の経験を積むこととしては役に立ったであろう。私自身もそうだが、これから難しい任務が控えているので、少しでも実戦に慣れた方が、今後のためになる。  道中、帝国の関係者に会い、通行証の提示を求められることがあったが、それ以外は特に変わったこともなく、夕方には、宿場町フルッスシュタットに到着した。  そして、フルッスシュタットで宿泊し、次の朝に出発。グロースアーテッヒ川を渡し舟で渡り、その日の午後には、ズーデハーフェンシュタットに無事帰還した。  我々三人は、ズーデハーフェンシュタット駐留軍の司令官ルツコイに報告のため、城の彼の執務室を尋ねた。執務室ではルツコイが待ち構えていた。 「ユルゲン・クリーガー、オットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタインの三名、首都より帰還いたしました」。  我々は敬礼して言った。 「ご苦労。予定通りの帰還、さすが時間に正確だな」。ルツコイは、椅子に腰かけたまま言った。「長旅で疲れているだろう。細かい報告は、明日の午前中で構わない。今日のところは休んでくれ」。  ルツコイは笑って言った。  彼の顔を見て、首都で聞いたイワノフの話を思い起こした。ルツコイも軍部で疎まれて首都から離れたズーデハーフェンシュタット駐留軍に居るわけか。  我々は執務室を去り、久しぶりにそれぞれの自分の部屋に戻った。やはり長旅で疲れがたまっているようだ。私はベッドに横たわって休むことにした。  暫くすると傭兵部隊の副隊長エーベル・マイヤーが訪ねてきた。疲れていたが、仕方なくベッドから起き上がる。 「やあ、隊長殿、長旅おつかれさん。首都はどうだった?」。 「大変だったが、色々と内容の濃い充実した旅だったよ」。  翼竜や盗賊を倒し、帝国の内情を知り、元共和国軍の残党にも会った。傭兵部隊に所属してからの二年分以上を、この十一日間で体験したような旅だった。 「それはよかった」。  エーベルは笑って言った。 「そちらはどうだった?」 「特に問題はなかったよ」。  私が留守でもエーベルなら、うまくやってくれると思っていた。彼はなんでもそつなくこなせる男だから、何事であれ依頼するのは安心だ。 「出発前に渡した魔石はどうだい?魔術は使ったんだろう?」。  エーベルは尋ねた。  私は懐に入れていた魔石を取り出して見せた。 「使ったよ、心なしか威力が増していたような気がする」。 「本当に威力が増しているはずだよ」。  首都での翼竜との戦いの際、魔術の威力が確かに増していたと感じた。 「首都で翼竜と戦ったのだが、おかげで助かったよ」。 「翼竜と?!翼竜を倒したのかい?」。  エーベルは驚いて大声で訊き返した。 「なんとか倒せたよ」。  私は首都での戦いの様子を話した。 「魔石のおかげで、稲妻の威力が増したんだな」。  エーベルは笑って言った。 「それで、次にやることは?」 「調査隊を編成し、翼竜の出発地と思われる島に行くことになっている」。 「それか。数日前にルツコイから少し話を聞いたよ。海軍の戦艦ごと行方不明になっている、あの件だね」。  エーベルの表情から笑いが消える。 「傭兵部隊から調査隊のメンバーを選抜することになると思う」。 「俺は選抜されるんだろ?」 「そのつもりだ。今回の任務には君の魔術が必要だ。他の隊員も可能な限り腕の良い者を選抜する」。  私は大体考えている選抜メンバーを改めて思い起こした。 「そうか、命がけの任務になりそうだから、心してかからないとな」。  エーベルは暗い顔で言った。 「なるべく生還できるようにする」。私はゆっくりと話した。「私も命は惜しいからね」。
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