雑司ヶ谷高校 執筆部
航海
 航海の途中、私は副長のレオン・ホフマンと探索ルートの確認をしている。我々はレジデンツ島の北側に上陸する。二隻のフリゲート艦は北側の遠浅の砂浜となっている沖合で待機し、調査隊は複数の小型のボートに乗り換えて上陸することになる。その後、島の東側と西側を第一隊、第二隊でそれぞれ探索する。  我々は東側の岩場の多いところで南に行くにつれ、森が深くなっていく。エーベルたちが探索する西側は、ほとんどは森になっている。二日もあれば第一隊と第二隊は南側で合流できるだろう。合流した後は島の中央部に向かい北側に抜ける予定だ。  もし、それまでに、何らかの“敵”に遭遇すれば対処する予定だ。  打ち合わせも終わり、私とホフマンは雑談をしている。 「やっと任務らしい任務に着けて、私は嬉しいです」。ホフマンは言う。彼は、賞金稼ぎ上がりなので、最初、言葉遣いが荒っぽかったが、二年間の指導の成果もあり、ようやく言葉遣いもちゃんとしてきた。彼は比較的、軍の規律に馴染んでいるように見える。  これまでの任務と言えば、街周辺の盗賊退治ぐらいで、ホフマンはそれではあまり満足できていなかったようだ。彼は命に危険がある任務もさほど気にしていない様子で、さすがいくつもの修羅場をくぐったというだけはある。肝が据わっている。 「頼もしいな」。  私は本心から言った。 「これで手柄を上げれば、傭兵部隊の評価が上がる。軍の中の待遇ももっと良くなるかもしれませんね」。  私の印象では、現在の傭兵部隊の待遇は、悪くはないが、良くもないという程度だろうか。私自身は昇進などは興味がないが、隊員達の階級や生活水準が上がるのが悪いことではない。 「今回は、十分に活躍してほしい。でも無理はするな」。  そう私は忠告した。  その後、時間を見つけて、アグネッタを念動魔術を教えてもらうため、自室に呼んだ。  アグネッタによると、念動魔術は、まずは集中力だそうだ。無論、魔石は身に着けておく。聞いたことのない、発音の難しい呪文をまず教えてもらう。それを唱えた後、動かしたいものを思い浮かべる。そして、それをどのようにしたいのか、強く念じると良いらしい。アグネッタの様に自分の体を持ち上げて飛行できるようになるまでは、一年以上の訓練が必要らしい。  数時間の訓練の後、机の上のカップを少し動かせるようになった。アグネッタによると私は筋が良いらしい。それは、エーベルからもらった魔石の品質が良いせいかもしれない。アグネッタにそれを見せると、彼女は眼を輝かせて、「これは相当な品ですよ」と言った。「私の魔石より格段も良いです」、とも言った。エーベルはそんな良い物をくれたのか。島で会ったら改めて礼を言おうと思った。ともあれ、カップを動かせるぐらいでは、まだまだ実戦に役立てることはできない。まだまだ訓練が必要だ。  私は話題を変え、首都へ旅した時、首都やモルデンにもヴィット王国の者が居るらしいと聞いたと、話した。ヴィット王国の者が国外に出ることは珍しいと聞いていたので、同じくヴィット王国出身のアグネッタにも話を聞いてみたいと思っていたところだ。  アグネッタによると、近年、国が少し方針を変え、外国に出るとことを許可することがあるという。それは、外国の魔術を研究するためや貿易のために限られているそうだ。なるほど、アグネッタは魔術の研究、モルデンでオットーが見かけたという商人、首都でイワノフから聞いた貿易商は、だいだいそれに一致する。  外国人がヴィット王国に入国はできるのか?と尋ねてみた。審査はあるが入国可能だというが、やはり貿易関係者でないとなかなか難しいらしい。  なぜヴィット王国が人々の出入りを制限しているかと言うと、魔術の進んだヴィット王国では、その魔術を悪用しようとたくらむ者の出入りを防ぐためだという。王立図書館には様々な魔術書があり、現在では使用禁止としている魔術も多数存在しているようだ。それの流出を防ぐために、ヴィット王国としては、昔から鎖国のような政策を取っているという。  私が「ヴィット王国に行きたいと思ったら商人にでもなるしかないのか」と、言うと。  アグネッタは「雪ばっかりで、面白いところないですよ」。と、笑って答えた。
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