雑司ヶ谷高校 執筆部
地竜
 翌日の早朝、まだ太陽が昇る前、水平線が白みがかっている。  今から出発すれば島の中央部には午後の早い時間には到達できそうだ。  私は、生き残りのホフマン隊のメンバーを我々の隊に編入した。彼らに道案内を頼む。うっそうとした森をどんどん進み、正午過ぎには話に聞いた通り、開けた場所に出た。  この周辺の木が枯れていることで、森が開けている。これは酸の霧の影響で木が枯れているのかもしれない。隊に前進をやめさせ一旦待機とした。今のところ霧の気配はないのを確認すると、私は隊を横に展開させた。  すると、兵士がそばで倒れている人を見つけたというので、私と数名で向かってみた。  アグネッタだ。まだ、息はあるようだが、酸に焼かれたせいだろう顔や皮膚がただれている。時折、苦しげに咳をしている。かなり弱っていて、言葉を発することはできないようだ。左腕を見ると、妙な方向に腕が曲がっている、これは骨が折れている。状況からみて上空で酸の霧を浴び、そのまま地上に墜落したものだと思われる。約二日、ここに倒れていたのか。  私は、「もう大丈夫だ」と、アグネッタに声を掛けた。しかし、何とか船まで連れていき治療しないと助からないだろう。兵士の四名選出し、ここから船まで連れて行くように指示した。  兵士達は手際よく木と布を使い担架を作り、アグネッタを乗せて、この場所を出発した。  残りの兵士はゆっくりと前進を続ける。ソフィアには上空から霧や何かの動きが無いか見張らせている。しばらくすると、ソフィアが「霧です!」と叫んだ。前方に霧が湧き出る様に迫ってきているのが分かる。ソフィアは大気魔術を使い、突風を吹かせる。すると霧は吹き飛ばされ、前方の視界が改めて開けた。ソフィアが私のところに降りてきて報告した。前方、霧が発生したあたりに、洞窟が見えるという。地上からは角度的にまだ見えないが、おそらく、そこに地竜がいる。私はソフィアに改めて霧に警戒するように伝え、隊には前進を指示した。  途中、ホフマン隊の隊員が何人も倒れていた。その都度、倒れている隊員の状態を確認しながら進むが、いずれも絶命していた。そして、大きな盾と剣を担いだままの遺体を見つけた。ホフマンだ。顔は判別が不可能なほど酸で焼かれている。私は思わず目を背けた。彼には、期待していただけに、ここで十分な力を発揮できず倒されたのは、残念としか言いようがない。  彼らの埋葬は後に回しにし、悲しみをこらえつつ隊はさらに進む。しばらくすると、正面に切り立った崖が見えてきた。その崖には大きな洞窟があるのが見えた。隊が近づくと洞窟の中から、霧が出てくるのが見えた。ソフィアは再び突風を起こし、霧を払いのけた。私は前進をやめさせ、しばらく様子をうかがうことにした。  すると、なかから聞いたことのないうめき声のようなものが聞こえた。ドスンドスンと地面が響くほどの振動をさせながら、何かが出てくるのが見えた。  地竜だ。  翼竜の数倍はあると聞いていたが、実際に見るとその迫力に圧倒される。紫がかった鉄色の鱗に覆われた体が不気味に光って見えた。  隊員たちは思わず後ずさりを始めた。  私はとっさに火炎魔術を使った。火の玉は地竜の体に当たるも、地竜は平然としている。  オットーと魔術師、上空のソフィアも火の玉や稲妻を放ち、地竜へ攻撃を開始した。  地竜はうめき声を上げながら、さらに前進してくる。突然、地竜は体を持ちあげ、後ろ脚で立つような状態になった。そして、前脚で地面をたたきつける様に体を元に戻した。幸い、隊員たちは前脚から逃れることができたが、あんなものに踏まれれば確実に圧死する。隊員たちはさらに後退する。  エミリーが矢を放つのが見えた、しかし矢は地竜に突き刺さることもなく、皮膚に弾かれてしまった。私は剣を抜いた。首都でやったように、地竜に剣を突きたて、そこに稲妻を放つ作戦に出ようとしていた。しかし、地竜は尻尾も左右に振っている、あれの直撃を受ければ体は簡単に弾き飛ばされてしまうだろう。うかつに近づけない。  地竜は突然、頭を下げ隊員の一人に襲い掛かった。その隊員は躱すことができず、地竜に噛みつかれ、そのまま飲み込まれてしまった。再び地竜が口を開き、頭を下げてきた。私は口の中をめがけて稲妻を放つ。これも首都で翼竜に使った方法だ。地竜がうめき声を上げて頭をあげた、怯ませる程度だが、少しは効果があったか。  私はそれを見て、地竜に突進した。ほかの隊員数名も続いて突進した。すると、地竜は体を持ち上げ、再び前脚で地面をたたきつけた。私は寸前でそれをかわした。しかし、隊員数名かわし切れず、脚の下敷きになってしまった。  私は地竜の前脚に剣を突きたてた、剣は数センチ刺さり、私はさらに力を込めて、押し込もうとしたが、地竜は再び体を持ち上げた。剣は前脚から抜け、空中へ飛ばされた。私はもう一本の剣を抜き、地竜が体を落としてくる位置で剣を構えた。地竜が体を落とした勢いもあって、剣は深く突き刺さった。しかし、私はその反動で、弾き飛ばされ地面にたたきつけられた。意識が朦朧とする中、オットーと魔術師がその剣に向かって稲妻を放つのが見えた。体を動かせないままでいた私を、隊員の二人が駆け寄り、地竜から離れた位置まで引きずって移動させた。 「剣を狙って稲妻を放て!」  オットーが叫び、彼の指先から稲妻が放たれる。魔術師もそれに合わせて稲妻による攻撃を開始した。  上空からは剣に向かって稲妻を放つのは難しいので、ソフィアも地上に降り稲妻を放っていた。じわじわと効いているように見えるものの、翼竜とは体がはるかに大きいので、以前のようにはいかないようだ。地竜は、まだまだ動けるようで体を起こしたりして抵抗をつづける。何かもうひと押し欲しいところだ。  エミリーは、ソフィアに近づき、地竜の目を矢で射る作戦を提案した。地竜は体が大きいため地上からは目を狙うのは困難。だから、エミリーはソフィアに抱えてもらい、空から目を狙いたいという。ソフィアは承諾し、エミリーを抱えて飛び立った。上空から地竜の隙を見て、エミリーは弓を引き、矢を放った。矢は、地竜の目を直撃した。これは地竜に効いたらしく、頭を激しく振って苦しんでいるようだ。  地竜がひるんだのを見て隊員たちが、地竜に駆け寄り、剣や槍で突き始めた。地竜は尻尾を大きく振り抵抗を続ける。  オットーも剣で地竜を突き刺し、そして稲妻を放った。地竜の体内を電流が流れる。  ソフィアはエミリーを地上に降ろした。二人も剣を抜き地竜に向かい、剣を突きたてた。  今度は地竜が、後ずさりを始めた。どうやら洞窟の中に逃げ込もうとしている。我々の攻撃が少しずつ効いているようだ。ソフィアは全員にいったん下がるように言った。洞窟の中に地竜の体が入ったのを確認して、ソフィアは呪文を唱えた。次の瞬間、洞窟の天井がカラガラと崩れはじめた。念動魔術だ。いくつもの大きな岩が地竜を直撃する。しばらくして天井の崩れが収まった。地竜は岩に半分ほど体が埋まり、まだ動いてはいるものの、その動きはかなり弱々しくなっていた。もう攻撃してくる力はないだろう。隊員達は岩によじ登り、改めて地竜を剣で突きたてた。オットーとソフィア、魔術師は稲妻を放つ。しばらくして、完全に地竜は動かなくなった。どうやら倒せたようだ。  私は、「師、大丈夫ですか」というオットーの呼びかけで目覚めた。どうやら気を失っていたらしい。「地竜は倒せました」とのオットーの報告を受け、「そうか、よくやった」と、かろうじて答えることができた。まだ少しふらふらする。  オットーは付け加えた。 「あまり無茶をなさらないでください」。
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