雑司ヶ谷高校 執筆部
"敵"
 私はふらつきながらも立ち上がり、隊員達に洞窟の奥を探索するように新たに命じた。しかし、まだ、私の意識がはっきりしていないのを心配したオットー達は、私は洞窟の入り口で休むように提案してきた。今は、私はそれに従うことにした。私と他の隊員五名は入り口で待機する。指揮はオットーとエミリーに任せ、彼らは洞窟の内部に進んでいった。  オットーを先頭に隊員達は洞窟の中に入っていた。中はかなり広い。地竜が住み着いていたのだから当然だろう。奥はどこまで続いているのか見当もつかない。オットーは隊員に松明を灯すように伝えた。しかし、中が広いため松明の光では、天井まではっきり照らすことができない。そこで、オットーは時折、天井に向け火の玉を放ち、天井の様子も確認しながら前に進んだ。天井ではコウモリがバサバサと音を立てて飛んでいるのが見えた。  かなり進んだだろうか、正面に何者かが立っているのが、松明の光がぼんやりと映し出した。  オットーは全員に剣を抜くように言った。  何者かは徐々に歩み寄ってくる。その者は茶色いローブを深くかぶり、顔ははっきり見えない。口元と白いあごひげが辛うじて見えるだけだ。 「何者だ!」  オットーは叫んだ。謎の人物は、何も答えず、腕を前に差し出した。  次の瞬間、その腕先から何筋もの稲妻が放たれた。洞窟の中が昼のように明るく照らされる。オットー、エミリーや前方に居た隊員は稲妻をまともに受け、後ろに弾き飛ばされた。ものすごい威力に一同は体がすくんだ。海上でのアグネッタと翼竜の戦いの際、アグネッタが放った稲妻と同じぐらいの威力があるように見えた。  後方に居た魔術師が火の玉をローブの人物に放つ。その者は火の玉を手で受け止める様にした。火の玉が全く効かないのを見て魔術師は狼狽した。逆にローブの人物が何言か呪文を唱えると、炎の壁が立ち上がり、我々に迫ってきた。オットーやエミリー達は何とか立ち上がり、後退した。ソフィアが大気魔術で突風を起こし、火の壁を押し戻そうとしている。しばらくすると、火の壁は消えた。  ローブの人物は、再び何か呪文を唱えた。 「天井が崩れる!」と、ソフィアが叫んだ。 「総員退避!」オットーが叫ぶと同時に天井が崩れだし、大きな岩が落下してきた。オットーは走って後退し何とか巻き込まれるのを免れたが、他の隊員達はどうなったのか。暗闇と砂煙があたりを充満しているので、視界が全く効かない。  まずは体勢の立て直しだと考えたオットーは叫んだ。「全員出口まで走れ!」  砂煙の中数名が走っている気配を感じた。しばらく走ると、先が明るくなってきた。出口だ。  ソフィアは崩れてきた巨大な岩のいくつかを、念動魔術で空中に停止させていた。これで何人かは下敷きになることを避けられただろう。しかし、これほど巨大な岩を長時間留め置くのは集中力の限界だ。ソフィアは力を振り絞り、頭上の岩をローブの人物に落下するように魔力を使った。目論見通り、岩はローブの人物のところに落下し大きな音と振動を立てた。 「やったか」。と、ソフィアはつぶやいた。  しかし、何かかが空中を横切るのが見えた。洞窟内は再び真っ暗ではっきり見ることはできない。こちらの位置を悟られないために、かがんで静かに剣を抜いた。  次の瞬間、洞窟内が炎で明るく照らされた。空中にローブの人物がいるのが見えた。相手も、念動魔術を使えるなら、もちろん飛行が可能だ。相手はこちらの位置を確認するために炎を放ったに違いない。ソフィアはすかさず大気魔術を唱え、突風をローブの人物に向けた。突風にあおられ、ローブの人物は天井付近にたたきつけられ、地面に墜落するのが見えた。  再び洞窟内は暗闇に覆われた。ソフィアは、地竜の戦いから連続して魔術を使っていたので、集中力が限界に達していた。一旦ここを脱出しようと考え、思い切って出口に向かって駆け出した。  洞窟の出口付近には崩れてきた岩が邪魔をしていたが、オットーと数名が脱出に成功していた。地竜は傀儡魔術の効果が切れ、土の山と化していた。オットーに遅れてさらに数名、しばらく時間をおいてソフィアが洞窟を出てきた。  ローブの人物が外まで追って来る気配はない。  私は、しばらく待ち、これ以上、脱出してくるものがいないのを確認して、一旦この場からの退却を命令した。
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