我々は島の北側の最初の砂浜に、夜のとばりが降りたころ到着した。そこで、松明を持った水兵たちが数名、出迎えてくれた。皆が口々に、慰労と称賛の声かかけてくれる。
私はシュバルツに抱えられ、小型ボートに乗り込み、オットー、ソフィア、隊員達と一緒にウンビジーバー号へと移動した。そして私は、自室に運ばれた。『とにかく今晩は休むように』とシュバルツに言われ眠りに就くことにした。この数日の探索と戦いでかなり疲れていたので、その夜は泥のように眠った。
次の日、私が目覚めたのは正午ごろだった。起き上がって船長室に赴き、昨日の礼を言った。
そして、昨日、彼が決戦の場に居た経緯を聞いた。
アグネッタが船に収容された時、船長は居ても立っても居られなくなり、彼は弓を取って、水兵五名、一旦帰還した隊員達八名と共に、我々に加勢しようと島に上陸した。我々の大体の居場所はアグネッタを連れてきた隊員が知っていたので、その案内をもとに島の中央部に向かったという。そして、洞窟の中に入るのは不安があったが、ともかく前進し、途中ソフィアが倒れているのを発見。彼女から戦況を聞き、洞窟の出口から森に入ったら、我々の戦いの場に遭遇したという。
シュバルツの助けがなければ、私も命はなかったかもしれない。私は改めて礼を言った。
シュバルツは「弓の腕が落ちてなくてよかったよ」と笑ってみせた。
彼の背後の壁には、その時、使ったのであろう弓と矢が飾ってあった。
次に、アグネッタの容態を尋ねてみた。船医が見ているが、どうやら酸を吸い込んだので、気管が焼かれているようだという。これは自然の治癒力に頼るしかないので、アグネッタの今後は今のところなんとも言えないということだ。先ほどから看病のためソフィアがアグネッタのそばにいるという。
また、ヘアラウスフォーダンド号の生存者で、衰弱し上陸できなかった者たち四人は、今では全員が元気になっているそうだ。
最後に島で発見した生存者の魔術師の容態を聞いてみた。彼も快方に向かっているとのことだ。我々が地竜だけでなくチューリンも倒したことに驚きを隠せないでいる様子だとのこと。
他にシュバルツは、水兵数名を島に上陸させ、あたりを偵察させているという。最後に倒したチューリンのほかにまだ敵がいないかどうか。もし傀儡魔術の怪物が出現すれば、まだそれを操る敵がいるということだ。チューリンが傀儡魔術の物だったので、他に敵がいる可能性が高いが、もはや我々にチューリンと同等やそれ以上の敵と対決する戦力も気力も残っていない。
また、シュバルツは念のため、クラーケンの襲撃に備えて海上での見張りも怠っていないという。さすが用心深いタイプだ、いろいろと助かる。
私には再び疑問が沸き起こってきた。島に居た傀儡魔術のチューリンは一体だれに操られていたのか。首都にいるチューリンがここに来たのか?もしくは首都のチューリンとは別の者なのか?そもそも、私が会った首都に居るチューリンも傀儡魔術によるものなのか?謎は深まるばかりである。
夕方ごろ上陸した水兵が帰還した。今日は島に怪物が出現した様子はないとのことだった。それを鑑みて、シュバルツは明日朝、ズーデハーフェンシュタットへ出航することを決定した。