雑司ヶ谷高校 執筆部
治癒魔術
 師がズーデハーフェンシュタットから出発して二日、ソフィアは今日も朝一番で、アグネッタの様子を見に医務室にやってきた。顔や手を包帯で巻かれ、折れていた左腕は固定されたままだ。島から帰還してもう十一日経つが、変わりない光景だ。  ソフィアは、「おはよう」と、アグネッタに向かって声を掛ける。アグネッタは瞬きで返事をしているようだ。  ソフィアは、少し遅れて来た軍の医師や看護師とも少し話をする。彼らが去ってから、すこし時間が立ったろうか、見知らぬ男が医務室にやって来た。男はヴィット王国の特徴ある刺繍の付いた服を着ていた。  ソフィアは驚いて尋ねた。 「誰?」 「私は、ニクラス・ニストロームと言います。ヴィット王国の者です」。と男は言った。「詳しい話は後で。まずはヴィクストレームを治癒魔術で治します。その後、首都に急ぎます。あなたの師、ユルゲン・クリーガーが危ない」。  ソフィアは驚いて尋ねる。 「師が危ない?どういうことですか?」 「それは、首都に行く途中に話します」。  ニストロームは手をかざし、呪文を唱えた。何度も呪文を唱え三十分ばかりたっただろうか、アグネッタが急に起き上がって一声。 「この鬱陶しい包帯をやっと外せるわ」。  包帯の下のただれていた皮膚は完全に元に戻っている。腕の骨折も治ったようで、アグネッタは固定していた板を外して、床に投げ捨てた。  ソフィアは治癒魔術を始めて見みた。そして、驚いた。アグネッタの容態は完治には最低三か月は掛かると聞いていたのに、たかだか三十分で治してしまうとは。  ソフィアとアグネッタは急いで出発の準備をし、ルツコイに言って馬の用意をしてもらった。ルツコイは『師に危険が迫っている』と言っただけで、詳しく理由は話せなかったが、快く馬を貸してくれた。これは、普段から師が彼と友好的にやっているおかげだと思った。  ニストロームは街の外に馬を置いていて、そこから念動魔術で上空から城内に入ったと聞いた。そういえば城内は関係者以外立ち入り禁止だが、空から来たので、この部屋までたどり着けたのか。  三人はズーデハーフェンシュタットを出発し、馬を飛ばした。通常四日の行程のところを、馬を昼夜構わず、かなり急がせれば二日でなんとかたどり着ける。  途中、モルデンで一泊した際、ソフィアは、ニストロームに詳しい話を聞いた。  二日目の夕方、三人は首都・アリーグラードに到着した。しかし、門の衛兵を突破するのは面倒だ。三人は街壁の外から念動魔術で、空から城に向かった。  そして、城を見ると上部が崩れているところがあった。どうやら、あそこで戦いが行われているようだったので、そこへ向かう。三人が上空から見た光景は、チューリンが念動魔術で天井と壁を破壊し、その瓦礫を使って攻撃している姿だった。  師は無事だろうか、ソフィアに不安がよぎる。  三人はチューリンに攻撃を開始した。
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