アグネッタとニクラスは、断続的に稲妻を放ち、チューリンを空中から床の方へ追い込む。
ソフィアは、剣を構えチューリンに切りかかる。チューリンは、それを躱すだけで精いっぱいなようだ。チューリンといえども、アグネッタとニクラスほど強力な魔術師二人からの攻撃はさすがに厳しいらしい。チューリンは徐々に高度を下げてきた。
下では、私はじめ、オットー、アクーニナ、親衛隊員達が待ち受けている。
一方で、帝国軍の兵士や重装騎士団は戦いに参加する様子がなく、通路の奥の方へ下がっている。ソローキンは、傍観するつもりなのか。チューリンに加勢しないだけ良しと思うか。
チューリンが剣の届きそうな高度まで下がってきた。私はゆっくりと最後のナイフを出してチューリンに投げつけた。ナイフはチューリンの首元に突き刺さった。チューリンは怯み、稲妻を出すのを止めた。アグネッタとニクラスの稲妻がチューリンの体を貫く。チューリンは床にたたきつけられた。すかさず、ソフィアがチューリンの脇に降り立ち、剣を振り下ろした。
チューリンの首は斬り落された。
アグネッタとニクラスも地上に降り立った。私、オットー、アクーニナ達もチューリンの遺体のそばに近づいた。
私はチューリンの遺体の横にひざまずき、彼の魔石をもぎ取った。
しばらくすると、遺体は土と化した。なかには驚きのあまり声を上げる者もいる。
私はさほど驚かなかった。予想通りだった。このチューリンも傀儡魔術によるものだった。そうなると、島に居たチューリンもそうだが、一体、だれが操っていたのか。
私はアグネッタ、ニクラス、ソフィアにこの戦いで、援護してくれた礼を言おうと立ち上がったが、その時、後ろから声を上げる者がいた。
「そこを動くな!」
チューリンの遺体を見ていた全員が、声の方を振り向いた。
声を上げたのはソローキンだ。兵士たちも、ぞろぞろと瓦礫の山と化した部屋の中へ入ってきた。
「チューリンを殺害した罪で、お前たちを全員拘束する」。
ソローキンは叫んだ。
兵士達は我々を取り囲もうと左右に展開する。
「これは傀儡魔術による土だ、人間ではない」。
アクーニナはチューリンだった土の塊を指さして叫んだ。
「そんなことは、どうでもいい」。
ソローキンは言った。
「どうでもいいだと?」ソローキンの言葉に驚いて、アクーニナは訊き返した。
それを無視するようにソローキンは、「全員武器を捨てろ、魔術師は魔石もだ!」と、再び叫んだ。
アグネッタとニクラスは目配せして、突然空中へ舞い上がった。
ソローキンは「待て!」と叫んだ。弓兵が矢を放ち、帝国軍の魔術師が炎や稲妻を放つが、二人はうまく躱し、どこか遠くに去って行った。
「捜索させろ」と、ソローキンは近くの兵に言った。そして、残された我々の方を向いて再び叫んだ。「早く武器を捨てろ」。
ここで抵抗しても、ある程度の兵は倒せるだろう。しかし城内には何百もの兵士がいる。城から脱出できるとは到底思えない。
私は持っていた剣を捨てた。オットーとソフィアもそれに続いた。それを見てアクーニナも剣を捨て、彼女の部下たちも続いた。
帝国軍の兵士達が我々を取り囲み、縄で縛り始めた。
「連行しろ」。
と、ソローキンは兵達に言う。
「貴様、こんなことをしてただで済むと思うなよ」。
アクーニナが怒鳴った。ソローキンはそれを無視して、縄で縛られる我々を確認するように眺めていた。
しばらくすると、部屋の奥の扉がゆっくりと開いた。
なんと、皇帝が出てきたのだ。ソローキンはと兵士たちはあわてて跪いた。
「何事だ。随分と騒がしかったようだが」。
皇帝はゆっくりと話し、ゆっくり部屋を見回した。天井が落ち、壁の大部分が崩れている。床には瓦礫と親衛隊員達の遺体も見える。
この惨状を見た割には、皇帝は全く驚いていない様子だった。これにはさすがに違和感を覚えた。
「チューリンを殺害した罪で、この者達を拘束しました」。
ソローキンは言った。
「そうか」。
皇帝は静かに答えた。そして、縄で縛られた我々を見た。皇帝は私を指さし、ゆっくりと話す。
「ユルゲン・クリーガーと話をしたい。彼だけは縄を解け」。
側近のチューリンを殺害されたと聞いても、特に驚く様子がない皇帝に、やはり私は違和感を覚えずにはいられなかった。
兵士は私の縄を解いた。
「こっちへ来たまえ」
皇帝は私を手招きした。そして、ソローキンには、「護衛はいらん」と言った。
ソローキンは、「しかし」と言うが、皇帝は手で制した。
そして、皇帝は私に改めて「来たまえ」と言って、部屋の中に入っていった。
私は言われた通りに皇帝の後に続き部屋に入っていった。
ソローキンは、それを見送ったあと、兵士に扉を閉める様に言い、ソフィア、オットー、アクーニナ達を連行していった。