次の日の夕刻。
謁見の間に帝国軍の主要な指揮官、首相と内閣の大臣の一部、首都の市長が急遽、集められた。ソローキン、キーシンの姿も見える。謁見の間は昨日の戦いで入り口部分が崩れ、瓦礫の山となっているが、この人数であれば、話をするのに影響はない。
皆、瓦礫の山となっている室内を見て、原因を知らないほとんどの者はこの状態に疑問を当然持ったようだ。お互い驚きを口にする。
そして、この皇帝の謁見の間に入ってくるのは、ほとんどの者が初めてか、あるいは、久しぶりだろう。なにしろ三年間、アーランドソンが、皇帝に誰も近づけないようにしていたからだ。
昨日まで皇帝の偽物が座っていた玉座には、イリアが座った。
その左右に、私とアクーニナが立っている。
その光景に一同は動揺したようだ。致し方無い。
イリアは毅然と、はっきりとした口調で話だした。
「皇帝スタニスラフ四世の崩御により、私は皇帝の地位に着き、この国の指導者として今後、執政します」。
再び一堂に動揺が起こった。
イリアは少し間をおいてから、話を続ける。
「この三年間、チューリンが不当に帝国を乗っ取り支配していました。昨夜、チューリンを逮捕しようとした皇帝親衛隊のアクーニナ、傭兵部隊のクリーガーとその部下たちがチューリンとの戦いになり、その結果チューリンを殺害しました。この部屋の惨状は、その時の戦いによるものです」。
そう言った後、イリアは少し間を置いた。そして、意を決したように口を開いた。
「そして、最も重要なことは、私の父、皇帝スタニスラフ四世はチューリンによって既に殺害されていることが分かりました。しかし、突然の皇帝の崩御は国内に混乱を与える可能性を考慮し、これより半年間、このことは国内外に対し極秘にします」。
一同はどよめいた。しかし、少し時間を置いた後は、それぞれ「御意」と返事をし、その場は納得したようだ。
イリアは少し時間を置いた後、話を続けた。
「内政について、明日、内閣と話をしたい。首相、各大臣すべてを明日の午前中にここへ集めてください。軍については明日の午後。ソローキン、キーシン。上級士官を集めて、また明日ここへ集まってください」。
イリアは他にも城内のことについていくつか話をし、「半年後、法律に則った正式な皇位継承の手続きは必要でしょうから、その準備は首相に任せます」。
と、首相に言い会合を終えた。一同は謁見の間から退出した。
それを見届けた後、イリアは、ため息をついて両側に居た私とアクーニナに話をした。
「どうでしたか?」
「これでよろしいかと」
アクーニナは言った。私も同様なことを二、三言、言った。
イリアは玉座から立ち上がり、私に話しかけた。
「クリーガー、ズーデハーフェンシュタットに戻るつもりなのですか?」
「そのつもりです」。
「ここにとどまり、私の補佐をしてほしいのです。約束の通り、それなりの地位を与えます」。
私は、首都に留まれという話も出るのではないかと、予想はしていた。しかし、そのつもりはなかった。
「申し出は光栄ですが、私は一兵士で、政治には疎いもので、お役に立てることは少ないと思います」。
「そういえば、島の調査の成功報酬として旅団長か、ズーデハーフェンシュタットの市長の地位を与えるという話を聞いたことがあります。いずれかを与えてもよいのですよ?」
「私は、興味ありません」。
「欲がないですね」。イリアはあきれたように言った。「何か欲しい物はないのですか?」
「特に何も」と、私は言おうとしたが、ふと、ある事を思いだした。「では、二つあります」。