雑司ヶ谷高校 執筆部
出航
 私が選抜したメンバーの一覧をルツコイに通知した。調査隊の出発日も決まり、その直前には出発式を行うことになった。出発式と言っても、メンバーを城の中庭に集め、ルツコイ、ベススメルトヌイフ、私の三人でメンバーに訓示をするという簡単なものだ。  その前に、出発式よりも重要な会議を行った。考えうる様々な事態を想定しその対策を検討するための会議だ。傭兵部隊からは、私、エーベル・マイヤー、レオン・ホフマン、エミリー・フィッシャー。海軍からは二隻のフリゲート艦の艦長ボリス・シュバルツとエマ・ミュラーが参加している。  翼竜との戦いが予想されるので、私と弟子二人が翼竜と戦った時の様子は細かくメンバーに伝えてある。翼竜との戦いでは、アグネッタとソフィアの念動魔術が空中戦で役に立つだろう。また、翼竜を操る魔術師がいるようだ、という想定でも話をしている。傀儡魔術を使う点から、かなり強力な魔術師だろうというのがエーベルの見立てだ。アグネッタ自身は傀儡魔術を使えないというが、知識は誰よりも豊富だ。彼女の意見は参考になる。また、他に島に魔術師以外にも何らかの兵力や魔物がいる場合や、上陸前に船が翼竜に攻撃を受けた場合など、考えうる様々な状況を想定した対策を時間をかけて検討した。また、島は、この一件のかなり前に、一度探索されたことがあるようで、もとは火山島だったようだ。今は火山は活動していないそうだが、島の中央部が大きな火口であった名残で窪んだ形状をしているという。かなり古いものであるが、島の大まかな地図を入手できたので、それをもとに探索ルートを検討した。  これまでの二回の調査隊が全員行方不明になっていて、今回の任務は本当に危険なものだということは全員に知れ渡っている。私にとっても、百名のメンバーの命の責任を負うというのはかなりの重圧だ。  そもそもルツコイなど、軍の他の指揮官はもっと多い人数の責任を負っていると考えると、大したものだと思う。  私は、この任務の重圧で出発日まで眠れぬ夜が続いた。  そして、出発日当日。  午前中、選抜された隊員を中庭に集め、訓示を行う。我々の監視役の帝国軍兵士や船の乗組員もそろっている。演台には私のほか、ルツコイ、ベススメルトヌイフ、シュバルツ、ミュラーが立つ。隊員は私の考えた配属通り、二つ部隊に別れて並んで整列している。  最初にルツコイ、次にベススメルトヌイフが話をし、最後の私が訓示を行う。先の二人がやや長めの話をしたので、私は手短に話す。 「今回の任務は、傭兵部隊にとってこれまでで、最も重要かつ危険な任務となる。任務の細かい内容については、これまでに説明したとおりだ。必ず任務を遂行し全員で生還しよう」。  やはり大勢の前で話すのは、慣れない。  私の話が終わると全員が港に向かって移動を開始した。傭兵部隊に続き、帝国軍の兵士が二十名。  予定通り、私が隊長の第一隊はウンビジーバー号に、エーベルが隊長の第二隊はヘアラウスフォーダンド号に乗船した。船には、それぞれ五十名の傭兵部隊の隊員、十名の帝国軍兵士、船の乗組員二十名の八十名ずつ、総勢百六十人の部隊となっている。  全員が乗船して、しばらくすると二隻は水兵の掛け声とともに帆が上げられた。船はゆっくりと港を出航する。ここから目的地の島=“レジデンツ島”と名付けた=までは約三日の旅だ。天候は相変わらず良好だ。穏やかな海だが、“嵐の前の静けさ”でなければよいが。  シュバルツの号令で、ウンビジーバー号はマストを上げて、ゆっくりと進みだした。その後ろをヘアラウスフォーダンド号が続く。  二隻の船は順調に海を進む。今日も天候が良く穏やかな海だ。とは言え、調査隊の者は海になれていない者がほとんどなので、船酔いの者が数名出た。隊員は上陸までは自由にさせている。甲板で訓練に励む者がいたり、魔術師達はそれぞれの魔術について話し合ったりしている。魔術師達は、特にアグネッタから念動魔術、傀儡魔術や大気魔術についてレクチャーを受けている。アグネッタによるとこの三日で魔術をマスターすることはできないが、相手の出方がわかるので、知っている方が戦闘で役に立つだろうとのことだ。私も時間を見つけてアグネッタから話を訊こうと思っている。
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