有原悠二の小説、詩、絵など
夜の壁
ハサミで紙を切る瞬間の時間を裂くような感覚が好きで             僕はよく知り合いに嘘をつく 指先から這うように伝ってくる小刻みの振動は無意識だ             誰も悪意の象形を覚えらない   手の平の中心に穴が空いていないか見つめる癖があった             人を殺したことを忘れていく 振動が止まった夜に星の音はどうしても鳴り止まなくて             右と左に分かれても冷静な土 それを僕は白い夢と呼びトイレの鍵を180°回転させる             胸の奥にいる邪魔者は死んだ 慌ただしい鐘が鳴って闇の中にお前の背中を認めたくて             墨汁の後ろに壁を築いていく それは腐る壁だから僕はいつも手を洗うようにしている             そう習ったからまだ幼い頃に 握るべきだったのは本当にスマホでよかったのだろうか             無地の封筒に無地の手紙だけ 鏡に映る倫理を知る前の世界はいつまでも夜が明けない             だから僕は犯すしかないのか だから僕は切り続けるしかなくてもう指も残り少なくて             手の平に穴を空けたい衝動が 黒い電気となって脳みそを徹底的に支配する約束だった             そして明け方に壁と目が合う 壁は何も語らないから僕はずっと壁に向かって夢想する             哲学よりも場の空気が理想だ 切り裂いた紙をなんて呼べばいいのか言葉の限界を知る             夜という雰囲気が落ちていく 穴があるということは周囲に壁があるということだから             僕はその壁に這うように飛ぶ
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