アカネクエスト
訪問者 4
 アレクは砂利道じゃりみちに立っていた。両脇りょうわきは背の高い石の壁で、正面にまっすぐ行くと左右に道が分かれているようだ。突き当たりに植え込みが見える。 「おっと、立ち止まるなよ。行った、行った」  かされて振り返ると、先ほどくぐった煙のカーテンからジョージが顔を出したところだった。アレクは慌ててあとずさった。  も無くけむりの中からジョージが全身をあらわし、アレクの横に立ってきょろきょろとあたりを見回みまわした。そうしているうちに煙はにわかに薄くなり、消えてしまった。わりに見えてきたのは壁だ。彼らは袋小路ふくろこうじに立っていた。  背後はいごから「にゃあ」と気怠けだるげな鳴き声がした。  どこからいて出たやら。植え込みの前にせた猫が一匹、こちらを向いて鎮座ちんざしている。猫は男二人の視線が自分に集まるのを待ってから、向かって左のほうへゆっくりと歩き出した。  ジョージがぽんとアレクの肩をたたいて言った。 「ついて行こう」  アレクは混乱しどおしだったがしたがうほかない。  アレクとジョージは袋小路を抜け、猫の背を見つめながらゆっくりあゆみを進めた。猫は、人気ひとけのないほそ路地ろじを右にがり左に曲がり、また右に曲がり……決して振り返ったり立ち止まることはなかった。  アレクが道順みちじゅんを覚えるのを放棄ほうきした頃、ジョージがにこやかに口をひらいた。 「なにが起こったか聞きたいかい?」 「そりゃあもう」  しかめっつらのアレクを見て、ジョージはくくっと面白そうに笑う。 「そうだなぁ、なにから話そうか。なにから聞きたい?」 「……ここはどこですか? さっきいた部屋は?」 「ここは七番ななばんゲート付近ふきん。の、はずだ。どのあたりかは俺にもわからない。ここへは魔法道具マジックアイテムを使って転移てんいしてきた」 「魔法道具マジックアイテム?」 「やっぱり使ったことない? 魔力を吸って、あらかじめインプットされた魔法を起動する道具のことを言うんだ」 「あのビーだまみたいなやつがそうですか?」 「そうそう。  転移ってのはすごくデリケートな魔法なんだ。成功させるにはいくつも条件がある。ヒース——さっきのごついやつのことだけど——あいつは、大枚たいまいはたいてあれを買って、こっそり運び屋をやってるってわけ。  この街はバカに広いからね。いそいでる時は便利だよ」  ジョージは軽く肩をすくめてから、アレクの顔を見やった。 「使い魔ファミリアって知ってるかい?」 「いいえ。なんですか?」 「魔法使いと特別な主従契約しゅじゅうけいやくを結んでる動物のことをそう呼ぶんだ。あの猫はヒースの使い魔ファミリアだよ。どこかに同じ魔法道具マジックアイテムを持たされてるはずだ。それと……案内やくってところだろう」  アレクはそれを聞いて鼻白はなじろんだ様子で、あらためてまじまじと猫を観察した。 「……普通の猫ですよ」 「そりゃあそうさ。人がしたがえられる動物なんて、たかが知れてるんだから。  ただ、使い魔ファミリアになると主人と意識の一部を共有する影響なのか、ちょっと理性的になるから、この街でなんとなくかしこそうな動物を見かけたら気をつけた方がいい。誰かさんは街中に使い魔ファミリアはなって商売を手伝わせてるし、似たようなことをやってるのは一人や二人じゃないからな」  アレクはとても暗い気分になった。 (動物相手にも気を抜けないのか……)  そうこうしているうちに、だんだんと道幅が広くなり、人とすれ違うことが増えてきた。  ジョージが軽く周囲を見回す。 「ふむ、大体わかった。案内はもういいよ。ご苦労さん」  声が届いたのだろう。猫がピタッと立ち止まり、初めて振り向いた。 「帰りもよろしく。ゲートで落ち合おう」  ジョージは言いながら猫に歩み寄り、腰を落とす。紙袋の中を軽く探った左手は、小さなベーコンのかけらをつまんでいた。彼が「チップだ」と言ってそれをほうるのと、はじかれるようにジャンプした猫のくちにベーコンがおさまったのは、ほぼ同時だった。  猫はまるで何事もなかったかのようにツンとしっぽを振ると、アレクのわきを通り過ぎてどこかに行ってしまった。

コメント

ミルキークイーン
使い魔欲しい。猫の手でもいいから😹
juri
お兄ちゃんをたずねて三千里。がんばれ、アレク!