綾鷹工房
2章(大江戸温泉物語・魔王・DIY)
「……そもそも仮想通貨の始まりはね、ネットに公開された論文が元でね…」 「ふぅん~(めっちゃ喋るなぁ…)」 マシンガンのように仮想通貨について熱く語るえくすこだったが仮想通貨に興味があるJKなど、あまり居ないだろう。 高梨めいもそうだった。カフェに置いてあった情報誌をパラパラと読みながら(GWは《大江戸温泉物語》で温泉エンターテインメントを楽しむ!と特集が組まれている。)えくすこの話に適当に相槌を打っていた。 「ねぇ…えくすこたん。仮想通貨が凄いのは十分わかったけど…そんなに稼いでどうするの?何か目的があったりする?」 スケッチブックに図解しだしたえくすこに、やんわりと他の話題を振る。 正直真面目に聞いたとしても、難しくて理解出来そうにない。 「将来の為だよ。今の日本経済はどうなるか分からないから(それは勿論仮想通貨もだけど…)後は世界各国を旅するための資金が欲しいから。それと猫。」 「猫?飼ってるの?」 やっと普通のキーワードが出てきた。将来とか経済とか、難しい話はスルーしよう。カフェで可愛い動物の話をする…うん!JKらしい! えくすこがスマホを見せた。もふもふしてそうな猫の写真だ。 「カリバーって名前なんだけど…食費が凄くかかるの《魔王》級にね!食わず嫌いで猫缶しか食べないんだぁ…栄養バランス考えてカリカリも混ぜてるけど(私のドッグフードもたまに)良く食べるから。大食らいの生意気猫だよぉ」 悪態をつきながらも楽しそうに話す。なんだ、猫好きな普通の子なのかもと思ったが、学校で一心不乱にドッグフードを食べる姿を思い出し、その考えは改めた。 「めいちゃんも猫好きなの?その髪留め、猫のシルエットで可愛いね」 お!えくすこたんが自分から話題を振ってきた! 「コレ?手作りなの。お姉ちゃんが《DIY》とかレジンアクセサリー作るの得意で、休みの日に一緒に作ったりしてるんだ~」 「それだよ!!!めいちゃん!」 おぉう!?急にどうしたんだ!顔を近づけまじまじと私の髪留めを見ている。 このクオリティならいけるとか、ブツブツ言ってる。 「これ、お金になるかも。自分が好きで作ったもので稼げるって楽しいよ!」 「え…?」 「さっき話したけど、えくすこにはArthur(アーサー)っていうものがあるんだ。そこで作品の展示や販売が出来るから仮想通貨で取引や支援が出来る。私は絵専門だけど、色々なジャンルがあるから。こうゆうアクセサリーも、立派なクリエイター作品だよ」 作品だなんて…そんな事初めて言われた。 ちょ、ちょっとそのえくすこってやつ、興味湧いてきたかも…? 「良かったらやり方教えるよ」 え、えくすこたん!!めっちゃ良い子じゃん……!!! 「その代わり、ここのカフェ代はおごってね!(めいちゃんが学校でえくすこの話題を出して参入者が増えれば、私の持ってるコインの価値が上がるかも…ふふふ!)」 「あ…うん…(お金持ってるのにちゃっかりしてるなぁ…)」 --------------------- 「もしもし…私だ、彼に電話を繋いでくれ……あぁ、例の件だ。君の言っていた通り少女が動いたよ。excaliburcoinに変動がありそうだ…」 カフェの中に2人の会話を聞いていたスーツ姿の男がいた事を、えくすこはまだ知らない。
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