中島渉
小森くづゆオリキャラ SS エトナ編
大晦日。エトナとリヴィの家は喧騒に満ちていた。 「そこっ、おりゃっ! ってちょっとハル! なんで私ばっかり狙うのよ⁉︎」 「ふふっ、あたしの前に立つ先輩が悪いんですよ!」 「あ、あれ? ナオちゃん、このアイテムってどう使うの?」 「……ん、とりあえず投げてみて」 「ちょ、なんか俺にばっか攻撃来てない⁉︎ あ、隙あり」 「イヤー! ちょっとセンパイ⁉︎ 背後からはズルくないですか⁉︎」 「えっと、ジャンプは……あれ? このボタンなんだっけ?」 座敷に置かれた炬燵には五人の人影……コスプレ部の面々がおり、その全員が例外なくゲームのコントローラーを握っている。その周囲には、炬燵を中心に本や雑誌、ボードゲーム、スマートフォンなどが散乱していた。 そう。彼、彼女らは今、年をまたいだ忘年会の最中なのである。 といっても、全員未成年の手前、酒を酌み交わすといったことは出来ず、要は全員で夜更かししようという魂胆である。 ちなみに今遊んでいるのは、某大乱闘ゲームの最新版である。初心者のエトナやリヴィに配慮してか、ガチ勢のナオはサポート重視、そこそこやり込んでいるらしい彼も高みの見物を決め込んでいる(ハルだけは元気に突っ込んで彼に攻撃を浴びせられていたが)。 一年最後の時間が、ゆっくりと流れていく。 そんな中で、ナオと彼の操るキャラが本気のドツきあいを繰り広げたり、人狼ゲームでハルが全員を欺いて圧勝したり、トランプゲームで全くポーカーフェイスが保てない姉妹に微笑ましい眼差しが向けられたり……楽しい時間は、刻々と過ぎていった。 「まったく……初日の出まで起きてるって言ったのに」 時刻は午後11時半。とっくに迫り来る眠気に耐えきれず次々と脱落していった後輩たちに、エトナは思わず口を尖らせた。だが言葉とは裏腹に、その表情はどこか優しく、慈愛に満ちあふれたものだった。 「しょうがないですよ。みんなはしゃいでましたし」 そんな彼女に苦笑しながらも同意するのは、コスプレ部の黒一点である彼だった。時折眠たげに目元を擦っているが、まだかろうじて起きている。 最初は女子だらけの部に男一人という状況に萎縮していた彼も、随分と自然体になったものだ──ふとそう思い、苦笑したエトナは「確かにね」とそう返した。 「けどナオったら、ホラーゲームなんて持ってくることないのに……しかもVRまで……」 「そういえば先輩、怖いの苦手でしたもんね……」 「べ、別に苦手じゃないわよ。ちょっと不気味なだけで……」 言いながらぷいっと視線をそらすエトナに、彼は優しい眼差しを向ける。そしてふと思い出したように時計を見やると、「よしっ」と意を決したように炬燵から出た。 「先輩。……少し、外に出てみませんか?」 「……うわぁ〜、綺麗……」 炬燵の誘惑をどうにか振り切り、ガウンを羽織って表に出たエトナが見たもの。それは満点の星空だった。 「冬は空気が澄んでるから、星が綺麗に写るんですよね」 写真部時代の知識を織り交ぜて説明しながら、せわしなく時計を確認する彼の仕草にエトナが首を傾げていると……どこか遠くから、除夜の鐘の音が響いてきた。 「ここ、除夜の鐘聞こえたのね。いつも中にいるから全然知らなかった」 「そうなんですか? じゃあ良かった」 「? 何がよ?」 首をかしげるエトナに、「こういうのも恥ずかしいですけど……」と前置きしてから、彼は口を開く。 「その……今年の年越しは先輩と二人で迎えたかった……なんて言ったら笑いますか?」 「っ……」 真剣な表情の彼に、エトナの鼓動が跳ねる。体が熱くなる。冬の冷気を押しのけて、白い頬が急速に朱に染まる。 気恥ずかしさから俯いたエトナは、せめて視線だけでもと上目遣いになりながら、彼にしか聞こえない、小さな声で呟いた。 「……笑うわけないでしょ……ばか」 その瞬間、最後の除夜の鐘が鳴り響く。 年が、明けた。 「……明けましておめでとうございます、先輩。今年もよろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 お互い、真っ赤な顔で新年の挨拶を交わす。なんだか無性に恥ずかしくなり、エトナは微かにはにかんだ笑顔を浮かべた。 「さ、さて戻りましょうか。ずっと外にいると冷えますし」 「え、ええ。そうね……って」 照れ笑いを交わし、家に戻ろうと踵を返した二人が見たもの。それは──玄関の扉から顔を覗かせ、これ以上ないほど生暖かい表情でサムズアップする三人……リヴィ、ナオ、ハルの姿だった。 「お姉ちゃん、良かったね」 「……末永く、お幸せに」 「へー、へぇー。センパイ方そういう感じなんですね〜」 三者三様の祝福(?)の言葉に、エトナの顔がボンッ! と真っ赤になる。そのまま玄関に走り寄ると、咄嗟に中へと逃げ込んだ三人を追って家の中に駆け込んだ。 「こらー! ちょっと待ちなさ〜い!」 「恥ずかしがらなくても良いんですよ先輩!」 「……ん。少し羨ましいけど、ある意味お似合いだから大丈夫」 「お姉ちゃんって本当に可愛いよねー!」 「もう、もう、もうっ ! とりあえず全員そこになおりなさーいっ!」 どったんばったんと、新年早々騒がしい四人の姿に。 「はは……」 また今年も賑やかになりそうだと、彼は乾いた笑みを浮かべるのだった。
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