雪斗は釘付けになった。
大昔自宅の教会に預けられたという、開かずの棺からでてきた「それ」がとても美しかったからだ。
「聖骸」と呼ばれていた棺の中身はあどけない少女だった。
しかし、絹糸のように細くてしなやかな金の髪、前髪の合間から覗かせたルビーと翡翠は、普通の人間のものではないと一目で悟ることができた。
「…Morir de hambre(お腹がすいて死にそう)」
スペイン語の呟きが小さく聞こえた 。
次の瞬間二人の間の二十メートルはあっけなく詰められた。
恐怖で動けないはずなのに、何故か咄嗟に思い付いた名前を呼んでしまった。
「やめろっ!イヴ!」
響き渡った雪斗の声。
殺される、彼の心は覚悟していた。
体に痛みは走らない。目を開くとそのにいたのは戸惑いながらひざまずく少女の姿だった。
「日本語…?なんで…あいつは死んだはずなのに…体が動かないんだ…」
錯乱する少女。
動揺で言葉が出てこない雪斗。
これが吸血鬼、イヴと少年神代雪斗の出会いだった。