樹 琴葉
ヤッちまった・・・
窃盗っちまった・・・。」 俺は、今更ながらとんでもないことをしたと、動転しまくっていた。 特に大きな野心もなく、大それた夢を見ることもなく、ただただ真面目に生きてきたつもりだった。 もちろん、真夜中に誰もいないようなところで、小さい横断歩道で信号を無視したことはあるし、ゴミのポイ捨てくらいはしたことがある。 立ちションや、路上で酔っ払って嘔吐したことなどもある。 でも、ちょっとした軽犯罪というか、違反レベルだ。 言い訳をするわけではないが、誰もが一度はしたことのあるようなやつだ。 今回の件も、決して悪気があってやったわけじゃない。 いや、正確には罪の意識というか、自覚はあったのだが、ほんの出来心だった。 ただ、まさか、こんなことになるとは思わなかった。 元より、犯罪を犯す人間は、最初からやってやろうと思う人間のほうが少なく、全員とは言わないが、大多数は「犯罪を犯そうとは思わなかった」というのだが。 俺は職業柄、そういう供述をする人間をたくさん見てきたはずだが、まさか自分が身をもって体験することになろうとは思わなかった。 戻れるのならば、昨日に戻りたい! 俺の名前は『伊藤俊輔』。 年齢は41歳で、職業は警察官。 本日、俺は犯罪を犯してしまった。
ギフト
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