横にいたスタッフが、店長らしき人に何か話しかけはじめた。
「店長、あの車、昨日の夜からずっと停車してたやつですよ。」
こちらにも聞こえてきて、それを聞いた店長が見る見るうちに表情が曇りはじめた。
うわぁ。
余計なことを、、、。
一瞬決意が揺らいだが、仕方がない。
諦めてまた一歩踏み出そうとしたときに、急にコンビニから出てきた男に声をかけられた。
「あれ?『うずみる』じゃん」
俺ははっとして、声をかけられた方向を見る。
ちなみに、『うずみる』っていうのは俺の中学高校時代のあだ名だ。
この呼び名を知ってるやつは、当然だが限られる。
中学高校の同級生しかいない。
声をかけてきた男を見ると、身長170、中肉中背、顔は整っており、上から下まで黒で統一されたセミフォーマルな服をまとっている。
しばらく顔を見ると、
「あぁ、『けんじ』じゃん。久しぶりだなぁ。」
俺は中学高校時代の同級生を思い出し、笑みを浮かべた。
俺はほんのわずかな時間しかかからず、目の前の男が誰であるか思い出すことができた。
25年近い歳月が経っているにもかかわらず、すぐに思い出すことができたのは、当時の面影をそのまま残しているからに他ならないが、年齢ほど老け込んでいないことも大きい。
俺に『けんじ』と呼ばれた男はゆっくりと近づいて来て、目の前まで来た。
ちょうど、店長と、『けんじ』、俺と直線上に立つような場所で俺に向かい合う。
「で、どうした? うずみる。何かトラブル発生か?」
表情、声色は変えず、ただ、俺に聞こえるギリギリの音量で声を発する。
突然のことで、俺は気が動転した。
「ど、どうしてそれを!」
俺は動揺もあり、大きな声を上げる。
『けんじ』は、あきれたようにこちらをみて、大きく溜息をついた。
「そんな思い詰めた表情してるのと、あのコンビニ店員の殺伐とした雰囲気見りゃ、誰でも何かあったとわかるだろ。」
少しあきれたような、でも和やかな笑みを浮かべて答える。
確かにそうである。
人間、ちょっと余裕がなくなると、すぐに客観的に物事を見れなくなるから困る。
「ここで再会したのも何かの縁。中学高校時代の友人が困ってるんじゃ見過ごせないから、私でよければ、力になるぞ」
そういうと、軽く微笑んだ。
俺は先ほどした決意が音を立て崩れるのを感じた。
安堵の表情が、そのまま返事ななっていたのだろう。
「よし、時間もあまり余裕はないだろうし、状況を説明してくれよ。」
そう言って、俺の肩を叩くと、『けんじ』も、変わらないなぁとつぶやいた。
どうやら、俺もあまり変わってないらしい。