樹 琴葉
事件の発端まで後少し
そこまで話すと、旧友は冷めた眼差しで、俺を見た。 「うずみる、、、。まさか本当にそれが事件の全容じゃあないよな? お前が高校出てから芸人になってたのは面白いけど。」 「いやいや、これから事件が起きるんだけど、必要な前説なんだよ」 本当に必要だと思ってるんだが、真剣さがイマイチ伝わってないようだ。 いや、実際に本当に必要だから話しているんだ。 さすがに俺だって、こんな状況で漫談をしている余裕はない。 早く本題に入れと促され、俺は説明を続けた。 何でも、川崎の警察署にいた超絶美少女なる子が、鎌倉署に配置転換で入って来たらしい。 あまりにもかわいかったので、対応した同僚がその場で歓迎会を申し出た。 くしくも、元の部署での仲間内での送迎会がすでに予定されていたようだ。 本来ならば、それを理由に歓迎会はなしになるか、別の日取りになるのが自然だった。 しかし、そこで相手から意外な提案があったようだ。 「せっかくのお誘いですから、是非♪。どうせなら、『歓送迎会』ということで、合同でやりませんか? ちょうど交流にもなりますし。自分から歓送迎会を提案するのも何か、気が引けるのですが。」 あくまでも、『歓送迎会』であり、決して『合コン』ではないのだが、元の部署での仲間、つまり参加者は全員女性職員ということだったようだ。 なので、名目上は歓送迎会だったのだが、内容的には実質合コンと言えるだろう。 その場で送迎会の幹事に電話で確認をすると、向こうも乗り気らしく二つ返事でOKが出たようだ。 こうした経緯で合コンとなったらしい。 元いた部署が交通課だったようで、参加者が女子らしい。 女子警察官は出会いが少ない。 うまく一般人の合コンに参加できても、職業を知られた瞬間に、相手にドン引きされる。 急によそよそしくなり、距離を置かれるらしい。 まぁ、そうだろうなと思う。 その点、同業者同士はそういう心配が少ないから良い。 同じ職場での交際、結婚というのも、それそれで弊害はあるのだが。 知ってしまったからには参加するぜ。 そう高らかに宣言するも、場所や時間などの詳細を教える同僚ではなかった。 大塚はともかく、上野ならなんだかんだ言って教えてくれると思った。 せっかくの定時退勤、翌日休みという幸せな状況も、とたんに恨めしくなってくる。 仕方ない。 適当に時間つぶして、後で他の仲間に聞こう。 さすがに、最後まで誰も教えないという薄情なマネはすまい。 俺は精一杯の悪態をつくと、階段を降りていった。
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