署の玄関を出ると、門番係の警官が「お疲れ様です。」と頭を下げる。
どこか、にやけた感じが、俺を馬鹿にしているようで腹が立ったが、あくまでも俺は平静を装った。
駐車場にとめてある白いタント、俺のマイカーに向かうと、目の前をクリーム色のフィアットが横切る。
あっぶねぇ。
慌てて飛びのくと、堂々と2車分のスペースに王様駐車した。
車の中からは婦人警官が降りてきた。
「あっ、、、。」
俺は思わず見とれてしまった。
間違いない。
この子がウワサの超絶美少女だ。
確かに顔は整っており、まさに美少女だ。
小柄で、黒髪ロング。
純和風というよりは、どこかオリエンタルな不思議な印象がミステリアスで良い。
警察官としては華奢でかわいらしい。
まだまだ若く、十代にも見えてしまう。
数秒間だらしない顔で見つめると、相手がこちらの視線に気付いたのか、俺を見た。
俺はこのチャンスを逃すまいと声をかける。
合コン情報を上野や大塚なんかに聞かなくても、本人から聞けば一番正確に決まってる。
聞いた情報が正しいかどうかもわからないし、何よりも、素直に聞いて答えてくれるとも思えない。
何かを奢る羽目になったり、きっと条件が付くはずだ。
そう考えると、これは神が与えてくれたチャンスに違いない。
「こんにちは。確か今日から配置転換でいらっしゃる方がいると聞いたんですが、貴方ですか?」
無難に声かけをする。
多少ニヤけた感じだったかもしれないが、笑顔で近づく。
「あ、俺、伊藤俊輔と言います。こちらで勤務してます。よろしければ、後は退勤するだけだったので署内をご案内しますよ。」
簡単に自己紹介をし、偶然の出会いに感謝しながら、お近付きになるアプローチを忘れない。
あわよくば、合コンが始まる前に決まるかもしれない。
勝負は試合が始まる前に決まっているのだよ。
でへへへへ。
数秒間の間が生じた。
一瞬だけ、天使のような微笑みを浮かべた後、すぐにまるで汚物でも見るかのような見下す目で俺を見た。
あれ?俺何かしくじったかな?
明らかに敵意を感じ、この数秒間のやり取りを頭の中で再生した。
「これ、川崎の高津署まで届けてきて。22時ちょうどに着くように。早くも遅くもなく、時間厳守。」
そういうと、茶封筒を俺に放り投げた。
「へっ?」
俺は反射的に封筒を受け取ったが、訳がわからず、確認をする。
「高津署に22時? この封筒を? 俺が? 何で?」
え? え? え?
頭の中でクエスチョンマークが乱発生する。
「何度も言わせんなよ。チンカスが!」
隠そうともせず、チッと舌打ちすると、すでに玄関に向けて歩きだそうとする。