樹 琴葉
ファミレス
俺はマイカーに乗り込むと、川崎方面に向けて発進させる。 片耳にイヤホンをつけ、携帯に繋げる。 運転中にも電話に出れるようにするためだ。 時計を見ると18時半。 22時の時間指定さえなければ良いのだが、 訳のわからない時間指定があるため、調整が必要と思われた。 一度、家に帰ろうかな、、、。 時計を再度確認し、思案する。 いや、現地近くまで行って、時間をつぶそう! そう決め、ゆっくりと下道を行く。 鶴岡八幡宮の横を抜け、大船まで出ると、左折して国道一号線を目指す。 運転中ずっとイライラがおさまらない。 あの女、ゆるさねぇ。 元々、評価は高くなかったけど、署長の評価は確実に地に落ちた。 普段はそれほどプライドが高くないので、頭を下げることに全く抵抗はない。 だが、今回のはさすがに、悔しくて仕方がなかった。 一号線に入るとそのまま北上する。 多摩川手前で沿線道路に入り、川上に行くと川崎市高津区だ。 第三京浜を使えば30分以上早く着くのだが、今回は時間つぶしもかねて、下道で来た。 結局、1時間半以上かかり、時計を見ると、20時過ぎていた。 晩御飯を食べたら、意外とちょうどいいかもな、、、。 そう思うと、高津区に入ったところでガストに入った。 ここなら、食後にお茶をして時間調整できるだろう。 車を駐車場に入れ、携帯を握りしめる。 あ、家に連絡しとかなきゃ。 携帯のリダイアル表示から、自宅を選択し、通話ボタンを押す。 「あぁ、俺。今日は帰るの遅くなるから。御飯は外で食べて来る。」 最低限の会話で通話を切った。 本当は時間もあることだし、もう少し話をしても良かったのだが、イライラした状態で話をするのも悪い気がした。 車をおり、階段を上がるとそのまま玄関をくぐった。 幸いにして席は空いているようで、すぐに中に通された。 俺はハンバーグセットにドリンクバーを頼むと、夕方の出来事を振り返った。 よく考えたら、そもそも俺は書類を押し付けられたり、邪険にされる覚えがない。 自分で言うのもなんだが、人からは好かれるタイプだ。 ましてや初対面なのだ。 なんか、失礼なことしたかなぁ? そう考えると、運ばれてきた食事を口にした。 無事に完食し、食後のウーロン茶を飲む。 突然、携帯が大きな音を立ててなる。 店内に『太陽にほえろ』のテーマがなり、数人がこちらを見た。 慌てて電話を取ると、『上野』の表示。 今日、階段の踊り場であった同僚だ。 「よぉ、俊輔~。今どこよ?」 通話が繋がると同時におどけた声が聞こえる。 後ろでガヤガヤと賑やかな声がし、中には女性の声も混じっている。 明らかに居酒屋かどこかであることは間違いなく、合コン会場だと思われた。
ギフト
0