頭のおかしい作品を投稿するやべーサークル
第2話:発見は活用の母でして、活用は発見の母なのです
 「ん?この銃は……」  愉悦に浸った気分でPadを物色する最中、とある銃の画像が繋の目に止まった。それは以前、何のひねりもなく安直に“変態銃”と調べた結果に偶然発見した物なのだが、それも随分前の話。今はといえば……。  「……あー、なんだっけ。……思い出せないや」  コンセプトが強烈にロマン魂(?)に刺さったあの衝撃は、今でも忘れられないのだが。そりゃもうよだれが滴れ落ちる程に……っと、そんなことはどうでもよくて。  普段の繋は、いくらロマン兵器が好きだからと言っても、兵器を調べる際には洪水よろしくドバドバ脳内に流れ込む大量の画像や文字を流し読みするだけで、その実詳細なんて覚えちゃいない。基本は兵器ごとの特徴のみで記憶しており、例えばXF-84H“サンダースクリーチ”*とか言う軍用機の皮を被った騒音発生機であれば、『近くに居るだけで体調崩すなんかやばいアメリカの単発ターボプロップ機』程度の記憶である。当然それと似た方法でこの銃も記憶しており、この場合は『バレルが2本あるハンドガン』と言う情報のみを鮮明に記憶していた。  特徴以外の全てを忘れた繋は、小さな興味心を辿りに特に何も考えることなく画像を見るためにクリックするのと同じような感覚でタップする。  「おわっ!? ……う、浮いてる!?」  そこに現れたのは、Padの上に投影された銃器の立体画像。現代技術では到底なし得ないはずのものが、彼の眼前に存在していた。  いくらロマン兵器ばかり漁っている身とはいえ、空中投影技術が現代の技術では未だ発展途上であることくらい知っている。そんなものスター〇ォーズくらいだよきっと! (実際は存在するけどね?)  ただしそんなこと一切知らない繋は、本来存在しない(はずと勝手に思い込んでいる)それに対し心底驚く。  「ど、どんな原理だ……これ!?」  恐る恐る手をかざすが、その手に感触らしいものは無く、ただ空振りするのみ。どうやら、本当に空中投影された画像のようだ。  「『AF2011-A1*』……そうだ! 思い出した!」  驚きであっけにとられた後、同じく空中に投影された『AF2011-A1』という文字を見て、その武器のことを思い出した。  『AF2011-A1』。横から見れば一見通常の『コルト1911*』に見えるが、正面から見ればあらびっくり……銃口が2つあることが見て取れるコルトシリーズの変態カスタム仕様である。機関部を連結したことで横幅も大幅に増えており、それに合わせてフレームも新設計のものに変更されている。ただ、機関部を横に連結してしまった影響でグリップがとても図太く、片手で持つことは大抵の常人には難しいことから基本は両手で持つのがノーマルだ。  現実ではやってることが同じ道を踏み外した銃器はもちろん存在し、その一例を挙げれば『TWIN AR Double Devil*』や『TKB-059*』などがある。  これらはまあなかなかのゲテモノで、前者は有名なアサルトライフル『AR-15*』を横に2丁繋げて連結。火力を2倍にしたはいいものの、排莢が左右両方から行われるおかげでエイムが出来ず、軽機関銃のような運用しかできないとか言う『お前本当にアサルトライフル?』を地で行く銃。  後者はソビエトの誇る変態銃設計士コロボフおじさん*の設計した銃で、銃身が3つ存在し各2000発/分計6000発/分*とか言う尋常じゃない射撃レートで撃てるとか、AK-74*の後継選定のために行われた次期主力小銃選定トライアル計画に大真面目に提出されたとか、これまたマガジンが太いとか言うレベルじゃないとか、話題に事欠かない銃である。  そんな妄想を脳内でぐるぐるさせつつ、繋は気持ち十分になるまで立体画像を舐め回すように見た。  「ん……《実体化》に《削除》……?」  お腹いっぱいに立体画像を見た後、Padの画面へと目を移す。  そこには、《実体化》と《削除》。それら2つの項目がPadに表示されていて、その下には何やら小さな注意文。目を凝らして、何が書かれているか確認してみる。  「《実体化》は、文字通り兵器等が召喚可能で、使用方法は脳内に直接伝達・インプットするため、精神的負荷がかかる……え”?」  あまりの内容に繋は目を疑った。それはもう『カスピ海の怪物*』が復活するかもねなんてニュースを見た時と同じ程度には。……あれ見てビビったわ。うん。  まさか、先ほど立体投影画像を見たばかりだと言うのに、次は脳内に直接伝達などと言うワードが登場すると誰が予想しただろうか。  もしこの『AF2011-A1』を《実体化》すると共にその使用方法を直接習得できるのであれば、他の様々な兵器も同様に《実体化》、そして使用が出来ると言うこと。ともなればロマン兵器ハーレムが作れるわけで……。そんなことが出来るのなら、よもや『ロマン兵器を実戦にぶち込んで活躍する様を見たい……』と言う願いが叶えられるのでは???  何せ、一般的にロマン兵器と呼ばれるものは実戦で投入されたことは一部例外を除けばほとんど無い。だが、これらに開発者らによる『(捻れた)愛情』や、『(間違った方向への)努力』があったのは事実。その大志を無下にすることなど、できるだろうか? ——断じて出来ないね! 折角開発されたんだし、どうせだし戦闘に突っ込んだりしたい……と言う建前の元、実際は、『敵の反応……私、気になりますッ!!!』と言う好奇心と、『ゲーム感覚で色々面白い事してぇなぁ』と言った考えが彼を突き動かす。だって、そんなことが実際に叶うなら、例えわけのわからないPadであれ試さない手はないよなぁ!? ……いや、例えロマン兵器を実戦で運用するとしても、現状それが投入できる場所なんて紛争地域アフガンとかくらいなんですけどね?  そんなこんなで画面に表示された《実体化》の項目をタップ。すると、画面にはでかでかと”個数制限に関する注意”と言う注意文が表示される。  それ曰く『兵器の《実体化》制限は、それの生産数、そして空気中に存在する各種『繝阪ル繧」繝文字化け』により影響する。生産数以上の数は《実体化》できず、再度同じ兵器を《実体化》するには、最後の《実体化》から24時間が経過する必要がある』とのことだった。ただ、それには例外があるようで、ペーパープランや構想のみで終わった兵器等にはランダム数での《実体化》が行われるらしい。兵器は生産数に影響する、ということなのだろう。  「うーん、流石に、そこまで甘くないのね」  ペーパープランだとそりゃもう頭おかしい性能の兵器がぞろぞろいるわけだし、それを『大量に《実体化》出来ないよ』、なんて対策を講じているあたり、何処かゲーム味を感じる。  『生産数に影響されるのねOK』と納得して注意文を閉じると、左下に《キャンセル》、右下に《実行》と言う文字、画面中央に空白の項目が表示されている個数記入画面が現れた。  「ん〜……まぁ、一つでいっか」  世の中には『AF2011-A1』を両手で持ち、射撃すると言うとんでもない動画も存在するが、自分は腐っても一般人。そんなふざけたことはしないほうがいいに決まっている。ということで今回は、捨て難いが仕方なく『ロマン』を捨てることにしよう。  空白の項目をタップして、画面下からせり上がって現れたキーボードを用いて“1”と打ち込む。それが終わった後、《実行》をタップした。  「さて、どうなるか——痛っ!」  その叫びと共に、Padの画面上部で目映まばゆい閃光が走った。繋は、脳内に痛覚が走る感覚を覚える。  脳の痛みに、閃光。その2つが脳内でグルグルしながら数秒が経過した。  「さ、さっきのが……脳内に直接伝達された——って、こっちも浮いてる!!」  しみじみと先ほどの感覚の感想を言いつつ、繋はゆっくりと目を開く。するとそこには、さっきの立体画像と同じようにPad上部で浮遊する『AF2011-A1』の姿があった。先ほどの者との違いといえば、より質感がリアルに、そして、何やら青い粒子を纏っていることくらいだろうか。  腕を恐る恐る伸ばし、『AF2011-A1』のグリップを持つ。それと同時に、纏っていた青い粒子のようなものがスーッと消え去った。  今回は先ほどと違い、画像ではないようだ。その証拠に、冷えた無機物で形成されたグリップ感触が手を通して伝わる。  「ほ、本当に……本物、なのかな?」  そのグリップを持つ感触と質感に、その重量。一見、とても本物に近いが……。  「いや、まさか?」  半信半疑の中、グリップを両手でしっかりと握り、近くに堂々とそびえ立つ一本の木へと銃口を向ける。照準を定めて、ゆっくりとトリガーを引いた。  ダァンッ!!!  「ッ!」  発砲炎と共に、『コルト1911』2丁分の反動で銃とそれを持つ腕が上へと大きく跳ね上がる。スライドの後退と共に排出された空薬莢が宙を舞い、地面へと落ちた。  「う、嘘でしょ……」  呆気にとられた様子で狙いをつけた木を見ると、そこには2つの弾痕が刻まれている。もはや本物で確定したようなものだが、一応『AF2011-A1』のマガジンリリースボタンを押し——やっぱり、絶句する。  「や、やっぱり……実弾……!?」  手に握られているのは、『AF2011-A1』のマガジン。それには、確かに実弾が装填されていたのだ。  「い、いやいや……」  繋は信じられないような口調であたふたする。そりゃもちろん本物の——。  「これ……本当に全て《実体化》できるの!? 最高じゃん!!」  ……え? あ……は、はい、そうだね!! ……うん。  た、ただまぁ……実際、このPadを用いて出した『AF2011-A1』のマガジンに実弾が装填され、なおかつ発射できたという事実があることを考えれば……本物であることは間違いない。  それに、この『AF2011-A1』を人生で使ったことがなかったにもかかわらず、今回こうして何のわだかまりもなく使えたと言うことは、Padに書かれていた『使用方法を脳に直接伝達・インプットする』と言うのは本当なのだろう。  「って、これを使えば、この森から脱出することもできるんじゃ……?」  脳内が喜びに包まれるのも束の間、早速このPadの活用方法を見出す。それは最終的には、現状の目標である『人に出会う』ということにも繋がることだろう。  でも、こんな狭い空間に出すことができ、なおかつ森からの脱出に使える兵器なんてあるわけ……いや、あります!(迫真)  「“アレ”なら……きっと……!」  繋は狂ったように画面を操作する。  「……よしっ! あった!」  彼が探していたもの。それは……。  「『X-ジェット』!」  『X-ジェット』。ウィリアムズ・インターナショナル社によって1970年代に試作された、小さく丸い胴体に積み込んだ1基ターボファンエンジンを用いて垂直離着陸・飛行を行う小型VTOLジェット機だ。その飛行方法は単純で、自らの体を傾けることで加速、減速、旋回を行う……それだけ。一般的に航空機で使用されるラダーやエルロンと言ったものは搭載されておらず、性質的にはヘリコプターに近い。ただこの機体の場合、ヘリにも一応存在する垂直安定翼と言ったものすら搭載されていないため、安定性は無いに等しいのだが。  更に言えばこれが開発された当時、既にヘリや無人機などが台頭していたことで、『わざわざこいつ使う必要ないじゃん。危険だし』ということで、敢え無く開発が中止されてしまった(ロマンが足りねぇんだよ、ロマンが!!!)。……もっとも、パイロットの真下にエンジンがあるおかげで故障した場合足が吹っ飛びかねないという危険性を孕んでいたり、安定性が悪かったり、さらにエンジン音がうるさいともなれば仕方ない。3種の欠点ですねクォレは。  そんな理由で開発が中止されてしまった『X-ジェット』。だが、今回はこの機体の特性である『垂直離着陸が可能な点』、『ローターを使用していないため、離着陸に必要な面積が少ない点』、『理論上ドーバー海峡の往復を”無補給”で可能なほどの航続距離を有しているため、航続距離に困ることはない点*』を考えれば、ここから脱出する分には性能が事足りるはずだ。こんな真似はヘリじゃできないね!  繋は『X-ジェット』を選択。Padの上に立体画像が投影され、画面の《実体化》を選択し……等々動作を書くと長くなるので、『AF2011-A1』を《実体化》した際と異なる点があった場面を除いて割愛する。  「ん、《実体化位置指定》?」  個数指定画面へと移動するが、先ほど『AF-2011-A1』を《実体化》した際とは違って空白の項目の下に《実体化位置指定》と言う項目が増えていることに気づく。  「なんだろ……」  その項目をタップすると、画面右下には小さく『実体化位置を指定可能な距離は、所有者を中心とした半径1キロ以内。任意の場所をタップすることで位置の指定が可能』との文章が表示されている他、それを除いた画面一面には自分を中心としているのであろう円形の地図が表示される。  「……いや、まぁ。想像はしてたけど。うん。——案の定、かぁ……」  一面緑に包まれた画面を見ながら、落胆したような口調で呟く。  ——ま、そゆこと!!! ここは完全に森の中! 遭難確定です!!! こうなってしまえば、この『X-ジェット』で脱出できることを望む他ないということだ。  自分のいる位置をタップすると《実体化位置指定完了》との文字が画面に表示、その後すぐに個数記入画面へとスッと戻る。  「これで大丈夫なのかな……?」  何の報告もなく画面が切り替わり、一瞬困惑する。だが、先ほどは確かに《実体化位置》をしたはずなので、大丈夫なはず……恐らくね!  「ちょっと試しに《実行》してみよっと」  《実行》の項目をタップし、それと同時に眼前に眩い光が発生した。  「——おぉ……」  ゆっくりと目を開くと、そこには実在するものと同様のカラーリングの、青や赤を基調としたカラーリングの『X-ジェット』が鎮座していた。どうやら、《実体化位置指定》はちゃんと動作していたようで、要らぬ心配だったようだ。  「さっきの『AF2011-A1』と同じことが適用されるなら、きっと操作できるはず……」  覚悟を決めたかのような表情で『X-ジェット』に後ろから乗り込む。内側にはいくつもの機器がずらっと並んでおり、一見どれがどれだかわからないが……。  「わかる……わかる……!!」  まるで思い出すかのように、脳の奥底から『X-ジェット』の操作方法がこみ上げてくる。  「これを……こうして……」  それら機器を手慣れたような手つきで操作し——  キィィィィィィィィン……  「動いた!!!」  彼の両足に挟まれたジェットエンジン。それのタービンが回転を始め、高音をあたり一帯へと撒き散らし始める。  繋は『やったぜ』と言いたげな表情でガッツポーズして、一言。  「これを使えば……この森から脱出できるね!!!」 ______  *XF-84H“サンダースクリーチ”:アメリカ合衆国がP-47ファッキンヤーボの後継として採用したF-84にターボプロップエンジンを積み、速度と航続距離の両立を行うことですごい戦闘機になることが期待された試作機。  ところがそのパンドラの箱を開けてみれば、あら大変。方向安定性の欠如に振動など多くの問題が露呈。さらには40km先でも地上でのエンジンテストの音が聞こえたほど騒音が酷いし、何なら近くにいればそれだけで体調を崩すレベルの欠陥兵器に仕上がった。実質航空機の兵器を被った地上設置型非殺傷音響兵器。  ちなみに、この機体が採用したエンジンを搭載した他の機体(A2DやA2Jスーパーサーベージ)もことごとく計画が破棄された吹っ飛んだ。許されないロマン兵器に対する冒涜である。  *AF2011-A1:作中で解説した通り、コルト1911を横に連結した(フレーム自体は新設計で、実質機関部くらいしか同じじゃない)ロマンの塊。両手に持てば実質コルト1911が4丁分の火力。こわい。  *コルト1911:天才技師ジョン・ブローニングの設計に基づいて誕生した、正真正銘の名銃。米軍では1911年に採用して以来、名だたる戦争を経験し1985年まで現役だった。  前述の『AF2011-A1』のような変態カスタムや、性能向上型等様々なバリエーションが存在し、その数は計り知れない。M2ブローニングと言い、マジですげえよジョン・ブローニング。  *TWIN AR Double Devil:驚異のAR-15連結銃。中心にピカティニーレールがないおかげでスコープは2丁それぞれにつける必要があるとか左右に排莢されるとか問題はあるけど火力は多いに越したことはない。古事記にもそう書いてある。  *TKB-059:ヒトラーの電動のこぎりMG42も真っ青のアサルトライフル。6000発/分とか言う射撃レートで敵を文字通りミンチにするぞ!  *AR-15:アメリカ軍が採用しているM16だとかM4だとかのご先祖。と言うかこれが正式名称。一般に販売されている仕様のもので、軍用のものと違う点は単発射撃しかできない点。  *コロボフおじさん:知る人ぞ知るソ連屈指の変態銃設計士。設計した銃の大半は年代的には変態だけど先進的な構造であるのは確か。今後もちゃんと登場します。期待してください……期待しろ(強制)。  *6000発/分:当時ソ連が採用していた主力小銃AK-74の射撃レートが600-650発/分と言うことを考えれば、どれくらい常軌を逸しているかわかる。1秒に100発撃てるとか人をひき肉の元か何かだと思っていませんか?  *AK-74:ソ連で正式採用されていた小銃。これの原型であるAK-47は1年くらい土に埋めてても動作するとか色々すごい。AK-47とAK-74の大きな違いは、AK-47の使う弾が7.62mm弾、AK-74の使う弾が5.45mm弾と弾の大きさが違うこと。  *カスピ海の怪物:詳細はここでは述べません。どうしても知りたいという方はご自分でお調べください。何故解説がないか、その理由は……(ヘッヘッヘ)。  *理論上ドーバー海峡の往復を”無補給”で〜:ドーバー海峡の往復距離は直線距離で約68キロ。『X-ジェット』は最高速度96km/hで30-45分で飛行できるとの情報から、航続距離は72kmと考えられるため。もっとも、これはあくまでも”理論上”の話。実際はわからん。航続距離とかの情報一切ないからね、仕方ないね。
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