いつも通り燃料切れ。
______
場所は変わり、テント内。角に置かれたランプがほんのりと内部を灯す中、繋は訳わからん表情で眼前の光景を見ていた。
「……あの。何これは」
「えっ、何って……」
『『食事』ですが?』と、繋と話していた男 は繋に『当たり前でしょう』と言いたげな表情で返す。他の兵士も同様に『何言ってんだコイツ』みたいな顔で繋を見つめていた。
「あっ、えっ……えっ?」
一方の繋は動揺を隠せない表情、口調で『じゃぁ——』と、質問を叩きつける。
「これは……何だよゥッ!?」
「ですから、それが『食事』ですって」
繋はそう言ってがむしゃらに、あちこちへと綺麗に並べられた寝袋を指差すが、一方の繋と話していた男 は何食わぬ口調で返す。
「いやいや、『食事』って、何かしら食い物食べることじゃないの!?」
まさか世界常識がすり替わったわけでもないでしょうに……そうだよね?
だが、そこでやっと繋の言いたい事が伝わったか、繋と話していた男 は思い出すような表情をする。
「……確かに、『食事』とは食物を食べる事である……そう記憶しています」
「いや君妙な言い方するね? だいたいその通りではあるけど……」
「えぇ……まぁ」
繋のボソッとした呟きに繋と話していた男 は、どこか裏があるかのような口調で小さく答えて続ける。
「ですが……“この世界”では、必ずしもそれだけではありません」
例えば、呼吸をする、睡眠を取る……そう言った、本来『食事』とは関係ない事でも……“この世界”における『食事』です」
「成る程ね……確かにそれなら納得——」
繋は納得げな表情を見せて、深く何度も頷きながら……
「する訳ないじゃないか!!! そんなのが『食事』な訳ないだろ!!!」
どんでん返しした。
いやだって、『食事』って食い物を食べる……それしか指さないしね?
「えっ、いやっ、でも……」
繋と話していた男 は少しの間困った顔を見せた後、『ええい言ってしまえ』と思ってそうな顔で叫んだ。
「それを“知っている”んだから、仕方ないじゃないですか!!!」
「なんだその言い訳!?」
知っているとしてもその理論は無茶なんじゃないですかね。寝てる間に『食事』だなんて……。
一方のどうしようもなさそうな口調で繋と話していた男 は続ける。
「私だってそりゃまともな『食事』したいですよ!? ですけど——もう、今日は《実体化》のリミッターが掛かってるじゃないですか!!!」
「あっ、そういえば……」
『Padの通知にそんなこと書いてたなあ。確か『2つ以上の機能は使えましぇん!!!』とかだったか……』なんて今更のように思い出す。
「瓦礫の中に食べ物ないかななんて探してみましたけど……全部炭、炭、炭! ろくに食べられる状態じゃないですし!!!」
あっ。それは本当にごめんなさい。私がやりました。
「本来この方法は“エネルギー”回復量が少ないですから、最終手段に近いんです!!! でも……もう……これしか……方法は……ウッウッウ」
「あっ、あぁっ! 大丈夫ですかッ!!!」
泣き崩れる繋と話していた男 を兵士たちがグッと支える。
さすがに泣くことなのか……な? 私にはわかりません! てか“エネルギー”ってなんのことですか。タンパク質?
「——っと、言うことでですよ」
その声とともに、繋と話していた男 はムクッと立ち上がる。その顔は特段、泣いていた様子には見えないので、先ほどのソレは嘘泣きだったのだろう。煩わしいね。
兵士たちは、安堵の表情で支えるのをやめた。
何はともあれ、繋と話していた男 は平然とした顔で繋に面向けて話す。
「繋殿。私たちには現状、『食事 』しかないわけです。
繋殿が空腹である中、こんな行為が『食事』なんて言われても、ご期待に添えないことは承知ですが……」
『どうか理解してね!!!』とか言いそうな顔で繋と話していた男 は繋を見た。
「あ、えー……ハイ」
「御理解、感謝します」
その後すぐ、繋と話していた男 は『明日の朝に本当の『食事』をする必要はありますが……』と、渋々納得した感じの独り言を繋が聞こえない位小さな声で呟いた。
「では、私も彼ら との交代がありますので、お先に……」
「ん……うん」
『どれでも好きな『食事 』をお取り下さい』とか言いながら真っ先に寝袋に突っ込む繋と話していた男 を見て、繋はまた思った。
(……また、名前聞けなかったな。うん)
……——
「本部の情報通りであれば、この丘を越えると“第27他民族処理部隊”の任地が見える。各員は、周辺警戒を怠るな。
ジョニー伍長は私と共についてこい。」
『了解』
歩兵たちがバイクから降り、各々が『Sten Gun』らしきものを手にして周囲警戒を始める。
この部隊の隊長らしき者に呼ばれたジョニー伍長なる男は、古臭い2眼レフカメラを手にして男と同伴して丘を登る。
やがて丘の頂上までたどり着き、“第27他民族処理部隊”の任地をその目で捉えた。
「あれ、か……」
隊長らしき者はうつ伏せの姿勢になり、右手で胸元に掛けていた双眼鏡を、左手で、胸元のポケットから丁寧に折られた一枚の写真を取り出した後、懐中電灯をポーチから取り出す。その写真は以前空軍が撮影した、“第27他民族処理部隊”の任地の空撮写真だ。
これを持っているワケと言えば単純で、彼らにとってどれが“第27他民族処理部隊”の任地かどうか、見分けが付かないためである。
男は片手に懐中電灯、片手に双眼鏡。地面には写真を置いて、それを懐中電灯で照らしつつ、コレ とアレ とを比較する。
「……ん?」
だがそこで、男は大きな違和感に苛 まれた。
何せその写真には、小さなテントや数台のトラック。それくらいしかないのだが、彼が今目にしているソレには、大きな壁。明かりも激しく灯っていて、あからさまにそれが別物であることを表していたからだ。
「違う。何もかもが……違う」
「……そのようですね」
ジョニー伍長は、カメラのシャッターを切りつつ小さく受け答えする。
「……ですが、あれが“第27他民族処理部隊”の任地……いや、拠点でないとして、一体誰がいるんでしょう?」
「さぁな……。だが、そんな事は我々に関係ない。
全部、本部 が決めることだ」
その後も男は幾ばくかコレ とアレ とを比較していたが、もう十分と判断してか、ジョニー伍長に小さく今後の指示を行う。
「これくらいでいいだろう。司令部からのお達し通り……この場合は、証拠の確保次第、本部に帰還だ。
ジョニー伍長は数枚写真を撮影した後、下に戻れ。私は下の奴らにこのことを伝える」
「……了解」
男がそそくさと下に戻り、遅れて『帰還だ』と言う声が耳に入った。
ジョニー伍長はアングルを変えての写真を数枚撮影し終えると、下に戻る。
そこにはエンジンが掛かりいつでも出発できる状態のバイクが数台と、それにまたがる兵士が数名いた。
「来たな、ジョニー伍長」
先行して下に戻っていた男が、ヘルメットを被りつつバイクに乗るよう促す。
「少しお待ちを——っと」
ジョニー伍長はサイドバックにカメラを突っ込み、男から手渡されたヘルメットを被る。そうして後ろに座ると、『もう出発して構いません』と、男に伝えた。
「わかった。では、本部に戻るとしよう」
彼らはこうして、“謎の施設を発見した”と言う情報を抱いて静かに本部へと帰還する。
……その存在が脅威と見られるまでの時間や如何に?
……——