World in me
馬鹿以下の己達
「はあぁっ!」 「ひっ! ぐはぁ」  一月光希ひとつきみつき、我らが妖斬隊ようきたい一番隊一月の代理当主の座に着く女性。  そして、今一撃でやられたのが我等が妖斬隊一番隊一月平兵士きっての『馬鹿野郎』木ノ下誠達きのしたせいたつだ。何やら光希様の振るった薙刀に殴られる瞬間かっこつけた顔をしていたためにまた何やら覚悟という名の沸切らない思いに線引きしようとしたのだろうが、やる時が間違っている。何も考えていないのか、と思えて仕方ない。だいたいそれをする時は何かまた彼女に何かがあった時だ。  自分の中で何とかその情報を飲み込もうと必死こいて、諦めようと決死の覚悟で考えている時の顔だ。  そんな事をする位なら光希様に告白して撃沈しろ、なんて私怨の入った思いを込めながら呆れた表情で彼、誠達を見る。  何やら、光希様の言葉に傷付いているようだが、正直放置したいのが正直な気持ちだ。だが、そうも言えない。何故なら、それを見ているのも彼と光希様の逢瀬の一部のように見えて個人的に嫌だからだ。 「それなのに──」 「はい、待って待って待って、光希様、ちょ〜っと待ってあげてください!」  だから、こうして途中で止める。本当は嫌で嫌で仕方ないがこれ以上その光景を見ていたくないからだ。 「そうです。言い過ぎですよ! ほら、誠達の心に傷が!」 「? 何言ってんの?」 「ああ、駄目だ。この人源次郎様と同じで鈍い」  周りも多分同じ気持ちなのだろう。口々にそう言って彼と彼女の二人の一方的な罵倒とも思える時間に口を挟み始める。  ……何やら、光希様がおかしな事を言っているがそれは無視し、馬鹿野郎に目を向ける。いい加減振られないかなぁ。なんて思いを込めて彼を見る。  何やら涙目で何かを拒否しているようだが、そんなことは知らないし、何を拒否しているのかもわからないので彼の気持ちを暴露してみる。 「ほら、誠達は光希様大好きですから」 「「「そうですよ!」」」 「だから、そこまで言われると傷つくと思うんです」 「「「その通り!」」」 「ふ〜ん。……軟弱者」  多分、この場にいる誰もが思った。振られないのかよ。っと思った事だろう。  光希様はだいたいそう言った話をすれば「ごめんなさい」か「無理」とか言って返事に即答するお人だ。それなのに、馬鹿野郎にはそれを言わない。  それがたまらなく悔しく、また仕方ないか、と思うところだった。  何故なら、あの馬鹿野郎だけが光希様が気持ちを立て直す助力が出来たたった一人の男なのだ。はっきり言って俺達では出来なかった所業だ。  ……だからこそ、思うのだ。彼だったら良いと、そしてだからこそ思うのだ。  何故、誠達なのだ……とも思う。  わかっている。それは仕方ない事だ。諦めた者と諦めなかった者の差だとわかっている。だが、思うのだ。あの立ち位置にいるのが自分だったら……。  そう思わずにはいられない。  胸が痛いし、苦しいし、何より悔しい。何故、自身は諦めたのか。そう思わざるを得ない。痛恨だ。  だがら、言いたい。『早くしろよ馬鹿野郎』と馬鹿以下の俺達は思うのだ。  少なくとも、神子だろうが、彼女と同じ立場だろうと俺たちは認められないと思うから……。  願わくば、俺達には遠い憧れと俺達に近いのに何も出来なかった俺達とは違う馬鹿に幸があれば良いと思う。  そんな事を軟弱者と言われ精神的に死んでいる馬鹿とそんな馬鹿を置いてさっさと道場を出て行った憧れに馬鹿以下達は思うのだった。
ギフト
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