「...理?入るぞ...」
キャップを被った髭の男性が扉を開く。
彼の目当ては消毒液の独特な臭いが充満した白い個室の白いベッドに横たわる、群青色の髪色の少年である。
「理...お前が眠ってからもう10年だぜ...?もうそろそろ起きろよ...俺らずっと待ってるからよ...」
そう囁くが、長い睫毛に縁取られた瞼は持ち上がることはない。
不思議なことに、彼の身体は2010年3月5日から少しも変わっていないらしい。
「俺らもうアラサーなんだぜ?いつまでお前だけまだ17なんだよ...羨ましいなぁ」
伊織は結城に歩み寄り、顔を覗き込む。
肌は青白く、まるで死んでしまっているようだった。
心電図の無機質な音だけが、彼はまだ生きているということを教えてくれる。
「...10年前の3月5日...俺、正直後悔したよ。なんでもっと早く思い出せなかったんだろうって...そうしたら、もっと思い出が残せただろ?」
自嘲気味に笑いながら、彼は群青色の髪をなでる。
「でも、お前には本当に感謝してるんだ。俺らの世界を、命を、守ってくれてありがとな。」
「じゃあ、俺帰るわ。チビ共に野球教えなきゃなんねえからな」
そう言って彼は部屋を出た。
ベッドに横たわる彼の頬が、ほんのり赤くなったように見えた。