樹木緑
第5話 ギリアン
後ろを振り向いた少年の風貌に、ノーラは少し見とれていた。 今まで、こんなにも奇麗な銀色の髪をし、爽やかそうな済んだブルーの瞳を持った人を見たことが無かった。 暫く少年の風貌から目が離せずにいたが、気を取りなして、 「ねえ、今何をしたの?」と、少年に尋ねた。 ノーラのそんな思いとはウラハラに、少年は真っ赤な顔をして、両手で頭を抱えて、 「きっ…きっ…君~! ぼ…ぼ…僕の折角の努力の結晶がああああああああああ!」 と顔に似合わず叫んでいる。 ノーラはきょとんとして、 「ごめんなさい。そんなに大切な物だったの?」と尋ねると、 「あたりまえだ!この為に僕は1年も前から毎日、毎日、毎日、毎日、早朝からこの湖へ来て朝露集めの魔法の練習をしていたんだぞ!それが…それが…一瞬で…初めて成功したのに…君のせいだぞ!」と、唾を飛ばさんばかりの勢いで騒ぎ立ててる。 ノーラはシュンとして 「ごめんなさい。そんなに大切な訓練だとは知らなかったの。ただ初めて見た光景だったから、本当にすごいと思って…」 素直に謝るノーラに、悪く思ったのか 「いや、僕の方こそごめん。何時も、何時も失敗ばかりだったから少しイライラしてたんだ。」と丁寧に答えた。 「ところで、あなた、誰なの? 私の名前はノーラ。森の南にある村に住んでるのよ。あなたのお家はこの辺りなの?」の問いに、 「私の名前はギリアン。君の村がどこに有るかは分からないけど、僕はお城の王仕えの魔法使い見習いです。」 と胸に手を当て、一例をして少年は答えた。 「まあ、あなた、魔法使いなの?私、つい先日お友達と、魔法使いについてお話をしていて是非会いたいと思っていたのよ。」 と嬉しそうに話すノーラに、 「君、魔法使いに会ったことないの?」と不思議そうに聞いてくる。 「魔法使いどころか、私、村からも出たことが無いのよ。」 「へー今どき珍しいね。この森の南にある村って言ってたよね。」 「ええ、小さい村だけど、とってもいい処よ。」 「村か~この辺りにあったかな?」そう言って考え込んでいる 「そうねえ、私の村の人たちって殆ど村から出ないし、出ても近くの町のみだから分からないかもね~ ところでギリアン、あなた、どうやってここまで来たの?この森って私の村の北側からのみ、入れたと思ったんだけど…」 「あ、僕は魔法陣を通ってここまで来たんだけど、村ね~。」と、まだ考えている。 「魔法陣?魔法使いみたい。」 「君…だから僕は魔法使いって言っただろ。」 「あ、そうよね、魔法使いなのよね、見習いでも!」そう言ってノーラがクスっと笑った。 ギリアンは顔を真っ赤にして「見習いでも、魔法使いは、魔法使いだろ。」とプンプンしている。 「アハハ、そんなに怒らないでよ。ねえ、それより、見習いと、魔法使いの境目って何?」 「あ~普通の人は分からないよね。見習いはね、まだ専門魔法が何なのか分からないんだ。」とギリアンが答えた。 「へ~専門魔法ってあるのね。それって見習いが終われば専門の魔法のみ使えるって事?」 「いや、基本的な魔法はどの魔法使いにも使える。でも、技が高度になると、ある一定の技はそれ専門の魔法使いのみ使えるんだ。」 「例えば、どんな魔法?」 「そうだね、簡単に言うと、火を使う魔法とか、水を使う魔法、地を揺るがす魔法、天を司る魔法、癒しとか、召喚魔法などかな。あと、僕は基本的な魔法使いだけど、戦士魔法などもあるんだ。」 「戦士魔法?」 「ああ、魔法を使う戦士の事。」 「え~想像出来ないんだけど。」 「そうだね、沢山は居ないんだけど、彼らは魔法使いの使う魔法とは少し違うんだ。僕ら魔法使いは、魔法がそのまま攻撃になるんだけど、魔法戦士たちは戦うときに、魔法で自分の攻撃力を上げたり、防御力を上げたりできるんだ。また敵の攻撃力や防御力を下げたりも出来るし。我が国の王が典型的な魔法戦士だ。」 「えええっ 王様って魔法戦士なの?凄腕とは聞いてたんだけど。」 「ああ、我が王は凄いパワフルな魔法戦士だね。地上に於いては最強戦士だと思うよ。」 そう言って、王様がどれだけ素晴らしくて、どれだけパワフルかを捲し立てた。どうやらギリアンは王様に酔狂しているようだ。 「凄いわね、想像できないけど、あなたは魔法使いの中のどれかになるって事よね。」 「そうだね、魔法使いは生まれた時、ほら、この杖についてるオーブを受け継ぐんだ。このオーブが魔法の媒体になるんだ。」 「それじゃ、オーブが無ければ、魔法が使えないってこと?」 「ある意味、そうも取れるね。ただ、魔法使いは元々魔法を使う素質は持ってて、一般的な魔法は使えるんだ。でも、オーブを使うことによって、魔法がもっと強力になるんだ。」 そう言ってオーブが埋め込まれた杖をかざして、ノーラの目の前に差し出した。 「ねえ、ちょっと見ても良い?大丈夫?」 ギリアンが杖をノーラに渡すと、 「へー透き通ってるんだね。凄くきれい。」と、まじまじとオーブを覗き込んでいる。 そして一点をじーっと見つめて、 「あっ発見!これ何?中央に小さな…これって…渦巻?」と聞いた。 「いや、ま、渦巻きみたいだけど、渦巻きではなくって、バジルって言うんだ。このオーブは魔法使いから、次の魔法使いに受け継がれるんだけど、前の持ち主が亡くなると、バジルが消えて元の透明なオーブに戻るんだ。そしてオーブが次の持ち主を選ぶ。」 「へ~そんなことがあるんだね。でも、オーブってどうやって次の持ち主を選ぶの?」 「持ち主をなくしたオーブは、魔法使いの長の塔に結界を張って守られてるんだけど、オーブ自身が次の魔法使いの処へ自分で飛ぶんだ。ま、飛ぶといっても、空を飛ぶわけではなくて、オーブ自身が魔法を持っているので、恐らく、魔法で移動してるんだろうといわれてる。誰も見たこと無いから分からないけど、次の持ち主が生まれると、その枕元にいつの間にかあるんだ。 そして、その子が成長して実際にオーブを手にした時、新たにバジルが現れるんだ。」 「じゃあ、ギリアンが生まれた時もそうやってオーブがやって来たのね。不思議~。」 ノーラはどうやら未知の世界に興味津々のようである。 「そんな風にして世代を通して、魔法を守って来てるんだね。それにしてもオーブ自身が魔法を持ってるなんてね~」とノーラは感心した。 ギリアンは続けて、「専門魔法を習得すると、その小さいバジル部分から光の屑が伸びてきてオーブの中で大きな星をちりばめたような渦が出来るんだ。そして、バジルに専門毎に違う色が付く。その色がその人の持つ専門魔法の証なんだ。例えば火を扱う魔法使いは赤、水を使う魔法使いは青、みたいな感じで。」と説明をする。 「あ、でも、魔法戦士って杖を持ってないよね?」 「魔法戦士は彼らの剣にオーブが埋め込まれている。これより少し小さいんだけど。そして彼らも魔法の種類に応じてオーブが色を持つんだ。」 「へー、魔法ごとにオーブの色が違うんだね~」 そう言ってノーラがオーブに手をかざした。 その時、バチっと電撃が走って一瞬オーブが金色に光った。 「痛っ!」そう言ってノーラは杖を落としてしまった。 慌てて、「あ、オーブ、オーブ、大丈夫?割れなかった?」と心配そうにギリアンに尋ねた。 ギリアンは笑って、 「ハハ、大丈夫だよ。何をやってもオーブって割れないんだよ。盗まれても戻ってくるし、それに一度杖にはめ込まれると、持ち主が亡くなるまで離れないんだ。」と答えた。 「でも…今、金色に光ったけど何故?私の手にバチっと来たの。私が触ったから?触るべきじゃなっかた?」 ノーラはオロオロとしている。 「いや、他の人が触っても、普通の杖だから何の問題も無いはずなんだ…」とギリアンは黙り込んだ。 「なぜ金色に光ったの?ギリアンあの光みた?」 ギリアンはうなずいて「うん…」と答えて、何かを考えているようだった。 「ギリアン!大丈夫?何か思いつくことでも?」ノーラが心配そうにギリアンの顔を覗き込んでいる。 「あ、大丈夫だよ。光の意味は分からないけど、君が何とも無かったら心配しなくても良いよ。」 そう言ってまた考え込んでしまった。
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