樹木緑
第8話 ノーラ村へ戻る
桜子は、ハッ、ハッと息を弾ませながら今朝来た道を、結んでおいたリボンを目印に慎重に村への道を辿った。 彼女の心臓は、ドキドキと早鐘を打っている。 「ギリアン…何てステキな少年だったんだろう。 あんな奇麗な銀色の髪と、済んだ瞳は今まで見たことが無かったわ。 それに魔法使いだなんて…」 ずっと会いたいと思っていた魔法使い… 今は何か特別な思いさえギリアンに対して生まれつつある。 それが何なのかは、分からないが、ノーラはギリアンに対して特別な何かを感じたのは確かだ。 恋とは違うかもしれないけど、不思議な感覚だった。 それにムーアの花咲く湖も見つけたし、ムーアの花も摘んだし、今日は何て素晴らしい日のスタートなんだろう。 そういう思いで胸が弾んでいた。 今朝通った藪を抜けると、見知った森の中の風景が現れた。 「ふう~やっとここまで来たのね。」そう一息をついて、見知った森の道を村へ向かって一目散に走っていった。 太陽はもうかなり上の方まで上がり、森の中は、あちらこちらに日が差している。 もうすぐ森の出口と言う処で、ペペとリュイともう一人の青年に遭遇した。 「あっ、ノーラ!」先に気付いたペペが大声で叫んだ。 「ペペ!ペペ!聞いて、聞いて、私、森の中で凄い人に会ったの!」大手を振りながら、ノーラが走ってくる。 「凄い人じゃ無いよ、ノーラ。僕たち、ローレイの処を尋ねたら、君が森に行ったまま帰ってこないって言うから、心配で皆で探しに来たんだ。」 そう言ってリュイがカンカンに怒っている。 「ごめんなさい。凄く心配をかけたんだね。でも、凄い人に会って、時間を忘れて話し込んでいたの。」と興奮冷めやらぬだ。 「その事はローレイの処でゆっくり話して。今は急いで帰って、ローレイに無事を知らせないと、彼女、あなたに何かあったんじゃないかってすごく心配してたのよ。」ペペにそう言われ、4人はさっそうとローレイ達の家へ向けて歩き始めた。 そして歩きながら、「こちらはどなた?」と4人目の見知らぬ人に聞くノーラにペペが、「ローレイの処に付いたら紹介してあげる。とにかく今は早く帰りましょう。」そう言ってどんどん、どんどん進んでいった。 森の入り口からローレイの家は凄く近い。 家の裏口にローレイが立って、ノーラたちが返ってくるのを待っているのが見えた。 ローレイはノーラ達を見つけるや否や、すぐさま走って来てノーラを抱きしめた。 「心配してたんだよ。まだ記憶戻ってないし、森で迷子になったんじゃないかとか、急に記憶が戻って元の場所に返ったんじゃないかとか。」と言いながらノーラの顔をまじまじと見つめる。 「ごめんなさい。ローレイ。私、凄い人に会って、時間も忘れてお話をしていたの。」と、息もつけずにノーラが興奮して告げる。 「とにかく無事で良かったよ。さあ、熱いハーブティーと美味しいスコーンが焼けてるよ。今朝あったこと事、お茶をしながらゆっくりと話してちょうだい。」 そう言って皆、テーブルについた。 ローレンがお湯を温め直している間、ペペとノーラがスコーンとティーカップを運んでくる。 そしてペペが、「ノーラ、紹介するわね。この人はリース。私の婚約者よ。今日はリースを紹介するためにローレイの処に顔を出したの。それであなたが帰ってこないっていうのを聞いて、みんなで探しにでたのよ。」と言って、少し恥ずかしそうに4番目の人を紹介してくれた。 「まあ、まあ、まあ、まあ、初めまして。あなたがペペの婚約者だったのね。あなたの事はペペから冬の間中聞いていて、是非会いたいと思っていたのよ。やっと会えたわね。よろしく。」といって右手を差し出す。 それにリースは???と言うような顔してノーラの顔を見ている。 それを見てノーラは手を握ったり開いたりして、「まあ、私どうして手を差し出したのかしら…」と不思議そうにしている。 此処でのあいさつの習慣は、女性はドレスの両サイドを少し摘んで軽くお辞儀をする。 男性は前と後ろに腕を回して軽くお辞儀をする。 「ねえ、もしかしたら、自分の事少し思い出してるんじゃないの?ノーラの居た国では、あいさつに手を差し出す習慣があったんじゃないの?そういう風に思った事ない?」とペペが言う。 「そうねえ、時折、何故こんなことをしてるのかしら?とか、何故、そんなことを言ったのだろう?と思う時はあるわね~」とノーラが首を傾げた。 「それって、良い傾向よね?きっと記憶が戻る日も近いのよ!」 ペペはそう言いながら、運んできた小皿を皆に渡している。 「ほ~ら、あっつい湯が来るから気を付けて!」そう言って熱々に、たぎったティーポットに入ったお湯をローレイが持ってくる。 そして皆に同じ、リラックス効果のあるルーテンというハーブで炒たお茶を出し、皆テーブルに腰かけた。 そして、「で、今朝何があったの?誰に会ったの?」とペペが興味深そうに訪ねてくる。 ローレイが「森で誰かにあったの?知ってる人?」と訝し気に聞いてくる。 ノーラは、「うーん、何処から話したらいいかなぁ」と思いを侍らせて、 「あ、そうだ!」と手をパチンと叩いて、今朝摘み取ったばかりの、ムーアの花がいっぱい入った籠をローレイの前にかざした。 ペペとリュイがそれを覗き込んで、「これって……」と言葉をなくしている。 どうやらペペとリュイは、この花が何の花なのか大体、分かっているようだ。 ローレイはノーラの顔を見て、「見つけた…の?」とか細く聞いた。 ノーラは目をキラキラさせて、うんと頷く。 ローレイの顔はあまり嬉しそうではない。 ノーラは少しローレイの態度が気になったけど、早く早く、今朝の事聞かせて、とせっつくペペとリュイに押されて、少しずつ、口を開いて行った。 ノーラは、ムーアの花の事を聞いて以来、とてもその花と、湖に対して特別な感情が生まれ、どうしても見つけたかった事や、一か月以上探し回っても見付けられ無かった事、そして偶然にその湖を見つけた事などを簡単に皆に説明した。 「で、誰に会ったの?」と聞くペペに、 「誰だと思う?」と逆に聞き返した。 ペペは少し考えこんで、「ん~、とびっきりのハンサムさんとか?」と少しおちゃらかしながら訪ねる。 ノーラは顔を真っ赤にして、「ん、確かに彼はハンサムだったわね。」という。 「ちょっと、ちょっと、会ったのって男の人?大丈夫なの?」とリュイが不安そうに尋ねる。 そしてノーラが興奮気味に、「ハンサムはハンサムで、今まで会ったことの無い人なんだけど、何とね、その人、魔法使いの見習いだったんの!」と見習いの処だけ小さな声で言った。 それを聞いたローレイが、やっぱり!と言うような顔をした。 ペペとリュイは凄くびっくりして、「え~!私も/僕も会いたかったよ!」と同時に叫んだ。 「明日また彼に会うから一緒に行きましょうよ!」と二人を誘うと、 「で、で、何を話したの?」と興奮気味に尋ねるペペを置いて、 「ローレイ!あなた、魔法使い達と面識があるわよね。」とノーラが尋ねた。 それを聞いたローレイが、「あなたが会った魔法使いがそう言ったの?」と尋ねた。 「ええ、彼、村の事知ってたの。それで、村は魔法使いと結びつきが強いはずだって。それに、村にはハーブに長けた人が、このムーアの花の使用法を受け継いでいるはずだって。それってあなたのことよね? ローレイ」と少し困惑したような顔でノーラが尋ねる。 「ノーラはこの村の生まれでは無いから、ムーアの花の事はあまり関係ないと思って話したんだけど、そうじゃなかったみたいね。そうね、私の知っている事を全て話すわね。」 そう言ってローレイは彼女の知っていることを話し始めた。 そう言ってローレイは少しずつ彼女の知っている事を話始めた。
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