樹木緑
第10話 ペペ、リュイ、ノーラとギリアン
「ほら、ほらこっちよ。」 そう言ってノーラは先頭に立ってペペとリュイを湖まで先導していく。 そして一番後ろからギリアンが付いてくる。 「それにしてもこの藪、良く見つけたね。まるで迷路じゃないか」とリュイ。 「そうなのよね。ずっと探していたけど、中々この道って気付かなかったのよね。」とノーラ。 「じゃ、ノーラって、とってもラッキーだったんだね。」とリュイ。 そこにギリアン、「この湖は魔法が掛けてあるから、普通だと見つからないんだよ。」と不思議そうにしている。 ノーラも続いて、「そうなの、そこはローレイにも昨夜言われたのよね。彼女も不思議がってたわ。それにこの道も、偶然と言うか、急に目の前に現れたというか…本当に不思議だったのよね。」 「そうなんだよな~ 僕も昨日父に、ノーラとのやり取りで起こったオーブに付いて聞いたんだけど、まだ分からないって教えてくれなかったけど、あの顔色は絶対何かを知ってるって、顔だった。それに会ったのがこの湖だって言ったらやっぱり!みたいな態度だったし。」とギリアン。 「なんか始まりそうだね。」とはリュイ。 「なんかって言うと?」と、ペペ。 「ほら、世界が終わる時、救世主が現れるって、あれってやっぱノーラじゃないの?」とリュイが真剣な顔をして言う。 そして続けて、「ノーラが村に現れたタイミングとか、予言の言葉が廻り出したとか、湖を発見するとか、魔法使いとの結びつきが更に強くなるとか…やっぱり考えてみても、全て辻褄が合うよ。」とリュイ。 「魔法使いの間でもその話は予言として残ってるんだ。最近父が予言の魔法使いと頻繁に連絡を取り合っているのは少し気になるけど、恐らく僕が一番情報を得易いと思うから、しばらくはちょっと探りを入れてみるよ。」とギリアンが言うと、ノーラが、 「今詮索しても何もわからないし、私も記憶が無いから何とも言えないけど、今出来ることをして行こうよ! ほら、もうすぐ湖に出るよ。」と言って、獣道の別れ道の処で左に皆を先導していく。 そして藪を抜けて、広場に出た後、小高い木々の垣根を分けて目に入ったのは、昨日ノーラが感動したのと同じくあの壮大な湖の姿だった。 その姿にペペとリュイは言葉を無くしてただ、だたそこに佇んでいた。 今朝は天気も良いせいか、湖にはうっすらと霧が掛かり、周りに佇んでいる薄紫の木々に絡んで、幻想の世界に居るようだった。 ペペが一言、「ねえ、ここって人が足を踏み入れても良い場所?」 続いてリュイが「神々しいよね。」と言い、 ギリアンが続いて、「僕は小さい時から毎日のように来てたから気付かなかったけど、言われてみればそうだね。」と言うのに対し、 ノーラは、ただその絶大なる光景を静観していた。 「それじゃ、朝露が乾く前に朝露を集めよう。ちょっとこの瓶を持ってて。」とギリアンがノーラに朝露を集める便を渡す。 ノーラがその瓶を受け取ると、懐から、使い古した小さなノートを取り出す。 「そのノート何?」と聞くノーラに、 「これは僕が学んだ魔法の言葉が書かれているメモ。図書室の本は持ち出せないから、こうして大切な事はメモを取っておくんだ。朝露集めの呪文もメモしてあるから少しおさらい。」そう言って、メモをパラパラとめくり、「あ、ここだ」とページを開け、ブツブツと言い始めた。 それを聞いていたペペとリュイが、これ、魔法言語だよね?と、コソコソと話している。 それを聞いたノーラが、「魔法言語ってなに?」と聞いてくる。 するとリュイが、「僕も特には知らないけど、魔法使いって、魔法を使うときは、特別な言葉を使うって言うのを聞いたことある。それが魔法言語。一般の人には分からないらしいよ。」と教えてくれる。 そしてギリアンが、手を差し出して、「瓶をお願いします。」とノーラに頼んだ。 ノーラが瓶をギリアンに渡すと、ギリアンが真剣な顔をして、深呼吸をし、なにやら唱えだした。 昨日ノーラが聞いたように、今まで聞いたことの無い言葉だ。 ペペとリュイとノーラは、静寂を保って、その行方を見守っていた。 ギリアンが呪文を唱え終わるや否や、ムーアの花から一斉に朝露が宙に舞い始める。 3人は息を殺してその風景を見守っていた。 朝露が全てムーアの花より空気中に舞い上がるや否や、そこで停止した。 ギリアンは一呼吸置いて、さらに呪文を続ける。 そして空を仰いだ途端、宙に舞った朝露が瓶の中に全て収まった。 最後に何か呪文を唱えて、蓋をし、ギリアンの朝露集めは終わった。 ノーラもペペもリュイもその光景に言葉を無くしている。 いくら見習いの訓練と言っても、魔法を使った行いは、目を見張るものがある。 「今日も旨くいったよ、但し、今日は瓶を落とさなかったけどね。」と自慢げにギリアン。 「昨日も思ったけど、魔法ってやっぱり凄いわね。」ノーラが感心しながら言う。 ペペとリュイは初めての魔法に、今だ言葉を無くしている。 瓶を懐に入れてギリアンが、「花、摘まないの?」と声を掛ける。 「そうそう、しぼんでしまう前に早く摘みましょう。」とノーラが言い、みんなでムーアの花を摘み始める。 「しかしこれが毒になるなんてね~」と言いながら、リュイがクンクンと香りを嗅いでいる。 「あっ、ほんのりと甘い香りがする。ほら、ペペも匂いを嗅いでご覧。」そう言って一輪、ペペの前に差し出す。 それを受け取ったペペが、「本とだ、甘い香り… でもこれ、どこかで嗅いだことが…」と首を傾げる。 「そう言われれば、そうだね? 僕もどこかでこの香り、嗅いだことあるような気がする。」とリュイ。 「でも、この花って、ここでしか咲かないのよね?」とノーラがギリアンに尋ねる。 「そのはずだけど、確かではないね。少なくとも僕がこの湖に来始めてから、ここでムーアの花を摘んでいった人はいないね。」とギリアンが答える。 もしかしたら、種が飛んであちこちの湖に、春先のみ咲いている可能性はあるかもしれない。 でも、この春先にノーラはかなりの数の湖を回ったが、ムーアの花が咲いている湖は一度も見なかった。 「ムーアの花って普通の人が持っても何も害はないんでしょう?」とノーラが聞く。 「そうだね、普通の人には、普通の花としかならないね。でも僕が心配していることは、もしそれがムーアの花だとすると、一体何が目的で花をもっていたのか? そしてどこから摘んできたのか? 君たちが見ても分かるように、この花って小さすぎて、花束にはならないからね。少なくとも誰かに送るために持っていたんじゃないと思う。」とギリアン。 「何だか謎だね。でも最近、私たちの周りって、何だかこういう謎な事多いよね? 何で私たちの周りでだけ、こういうことが起きるんだろう?」とペペが心配そうにしている。 「何だか否応なしに、得体の知れない渦に巻かれて行ってるみたいだ。」とリュイが言うと、皆黙り込んでしまった。 「そうそう、ギリアン、私、今日は朝食を持ってきたのよ。」と、そう最初に声を掛けたのはノーラだった。 「だよね、僕もうお腹ペコぺコ。」とお腹をさすって見せるのはリュイ。 「へ~、ノーラって料理できるの?」とギリアンは感心している。 「ノーラってパンを焼くのがすっごく上手なのよ。」とペペ 「そうそう、今朝も早くから起きて君のためにって、そりゃもう、僕に味見もさせくれなくってさ。」とリュイ。 「ちょっと~、茶化してないで早く食べましょう。」そう言って、ノーラはシートの上にお皿とカップをどんどん並べていく。 「ん~、良い匂いがする。」そういってギリアンがクンクンとバスケットの辺りを嗅いでいる。 ノーラは颯爽と、チーズをのっけて焼いたパンに、焼いた卵を乗せていく。 ペペはカップにコチュで作ったお茶を入れていく。 「うわ~、凄く美味しそう。」と舌を鳴らすギリアンに、ノーラは「どうぞ召し上がれ。」とお皿を渡す。 「うん、すっごい美味しい!」一口食べて、そうギリアンが褒める。 「ありがとう。いっぱいあるから沢山食べてね。」そう言ってノーラがナプキンをギリアンに渡す。 「僕たちの分は~?」と聞くリュイにペペが、 「ほら、私たちは自分で取ってたべるの!」そう言ってお皿を渡す。 「はい、は~い。ちぇ、僕も早くご飯よそってくれる人見つけないと!」と、ギリアンとノーラを茶化している。 ギリアンとノーラはお互い顔を見合わせて、真っ赤になり、「ちょっと~そんなんじゃ無いわよ!/無いよ!」と同時に叫んだ。
ギフト
0