樹木緑
第12話 私は桜子
「桜子~ 早く起きなさい! 今日は合格発表見に行くんでしょ? 朝食出来てるよ。」 一階から母親のいつもの声がする。 先ずは右目を開けてそれから左目を開けてそして両眼をあけて暫く瞬きをする。 天井にはファンタジーな特大ポスター。 それを見つめて、又目を閉じて瞑想をする。 目前には深い緑に覆われた森 中に入ると森ではあるが開けた草原 木々の間から差し込む柔らかい日の光 昼間でも大きな月 見たことも無い様な草や花 風に舞う葉や花弁 その中を飛び交う妖精や色んな光の玉 木々の向こうにボンヤリと見える魔法使いの塔 岩山の谷間から流れ落ちる滝 その麓にあるエメラルド色の湖 何処かで繋がっているエルフ達の森 一歩脚を踏み入れると人懐こい動物達の歓迎の挨拶……… そしてまた目を開けため息をつく。 何故私はそんな世界に居ないのだろう? 毎朝起きる度にそんな事を思っている。 そうやって物思いにふけっていると又、 「桜子! 何度呼べばちゃんと起きて来るの? 合格発表に行くんでしょう?」 と、母親の声が響き渡る。 ハ~ッとため息をついて、 「大丈夫! ちゃんと起きてます~ 合格発表は10時からだから、まだまだ大丈夫だよ!」 取りあえずこれ以上怒られない様にと返事をする。 ベッドに腰かけ、肩で息を吐いて大きく深呼吸すると、重たい体をベッドから引きずり下ろして、ウィンドウへと歩いて行く。 カーテンを一気にサーっと開けると日の光が差し込んで凄く気持ちが良い。 窓を開けて朝一番の空気を吸い込みながら、窓からの風景を見渡す。 私は東京で生まれて、東京で育った。 緑は結構あるけれども、私がイメージする自然とはちょっと違う。 ま、東京は基本的には右を見ても、左を見てもビルの山、山、山、そして人、人、人。 日本の経済の中心である東京に人が集まるのは分かる。 この人達を支える為に今私が見ている風景が有るのも良くわかる。 でも私は、このビルばかりの都会に霹靂している。 私の夢は、異世界へ行く事! 異世界で魔法使いになる事! そしてキラキラと輝く王冠を頭に乗せた、とーっても強くて、とーってもイケメンな王子様と大恋愛をする事! 実際に異世界なんか在るのか分からないけれど、私は絶対あるって信じてる。 異世界へ行ったら、きっと私は、強力な魔法使いになるんだと信じてる。 そして悪と戦う王子様の右腕になって私の持てる魔法のパワーを使って王子様とその国を救う。 だから、絶対、絶対異世界への行き方を見つけて異世界へ行く!そう決めている。 友達には馬鹿にされるけど、その為の努力と時間は惜しまない。 そして、“現世に帰らなければ”、と言う葛藤に苛まれながら苦しむ私に、私を返したくないと思う王子様との間で誰もが羨むような恋が芽生えるの! それ絶対! だから私、絶~対異世界に行く!そして私だけの王子様を見つける! 此処にも大好きなものはたくさんある。 お部屋のベイウィンドウ、そこに飾った観葉植物、レースのカーテン、トロピカルなパジャマ、ファンタジーな置物、大好きなゲームの王子様キャラのポスター、おばあちゃんの温室、そして私の家族! そんな私の名前は大木桜子。 超難関進学高校を受験したばかりの15才の女の子。 これは、そんな夢物語を信じる桜子の物語。
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