「じゃ、じゃあ~、サイコロ第1投目の行き先候補、発表なんよ~!」
ようやく美森から解放された園子。メモ帳を仕舞い、改めてフリップを胸の前で持ち直して書かれている行き先などを読み上げていく。
「サイコロの目、そのイチ~!」
――①高松空港発【東京】
「その二~!」
――②さよなら四国【倉敷】
「そのサン~!」
――③フェリーで行くよ~【神戸】
「そのヨン~!」
――④本州最南端【和歌山】
「そのゴ~!」
――⑤四国を満喫【松山】
「そのロク~!」
――⑥石仏の街【臼杵】
「全部行ったことないわね」
「松山も四国なのに香川を出たことないですもんね」
「え? えっ? 今から何が始まるの?」
園子の説明中、ずっと寝ていた眠り姫友奈。当然、何が始まるのか分からず小動物のようにキョロキョロ見回している。
「……友奈ちゃん、可愛い」
美森、通常運転――。いつの間にか、どこからともなく取り出したビデオカメラをも回し始めている。
「ゆーゆはこのサイコロを振れば良いのさ~。さあ~」
友奈が園子から六面サイコロを受け取る。
「これを普通に投げれば良いだけ?」
「いやいや~。こんなふうに投げるんよ~」
園子が大正橋プラザ前(もちろん人はいない)の駐車場まで一同を引き連れると、そこで1人歌い踊り出した。
「何が出るかな~♪ 何が出るかな~♪ それはサイコロ任せよ~♪ トウッ! ……って!」
駐車場を円を描くように跳ねまわり、最後はボウリングの球を投げ終わった後のようなポーズを決め、5人にドヤ顔もキメる園子。
「「「「……――」」」」
いつもの奇怪な園子とはいえ、言葉に詰まる美森・風・樹・夏凜。
しかし、友奈だけは聡明な瞳をこれでもかと輝かせていた。
「おもしろそうーっ!」
友奈はすぐさま園子の隣に駆け寄り、どうしたら良いどうしたら良い? と地面を踏み鳴らし園子に迫る。
「ぶっちゃけ自由なんよ~」
結局、友奈は園子と一緒に、まるで一面銀世界の上を駆けまわる子犬のように何度も飛び跳ねながらサイコロを放った。
「何が出るかな~♪ 何が出るかな~♪ それはサイコロ任せよ~♪ トウッ! …………にっ!」
《――②さよなら四国【倉敷】》
「倉敷ってどこだっけ?」
「岡山県よ、友奈ちゃん」
「おかやまっ! じゃあ、大橋は壊れてるしフェリーかな?」
「いんや~、この世界の大橋はちゃーんと本州と繋がっているんよ~。橋の上から渦潮も見れるよ~」
「うずしおっ! それ魅力!」
「……大橋。なんだか、複雑だわ――」
浮かれる友奈とは対照的に神妙な面持ちになる美森。
そんな彼女の今の心情を園子は誰よりも理解できてしまう。だからこそ、園子は優し気な口調であえて皆に向けて語った。
「この世界の私たちは、今から四国を出て全国に自由に旅に出ていけるよ。四国だけじゃない、未来の日本を巡れるんだよ~。その第一歩に未来の綺麗な瀬戸大橋を渡れるのさ~。この未来があるのも、私たちや先代の勇者たちが頑張ってくれたお陰だよね~。だから、私はみんなと未来に向かってどんどんサイコロ振りたいんよ~!」
「そのっち……」
美森はまっすぐ、園子を見つめていた。
敵わない――。
小学生の頃から、そのっちには敵わないなと、美森は今までの日々を反芻していた。その中には、あの決して忘れてはならない彼女も脳裏に……。
「東郷さん? 泣いてる?」
「あ……。えっと……」
美森のぼやける視界の向こうから、ピンクに白い花がワンポイント入ったハンカチが差し出される。ふんわりと桜の香りの柔軟剤が美森の鼻先をくすぐった。もうそれが誰の物なのかは一目瞭然。
「ありがとう、友奈ちゃん」
ハンカチを目にあてがう美森の頭を、友奈はやさしく撫でてあげていた。
一方、暖かな眼差しで二人を見守る樹たちも園子の語りに賛同した。
「たしかに、園子さんの言う通りですね。他の地域の未来の姿をこの旅で見られるの、私もなんだか楽しみです」
「そうね。香川のうどんに負けない美味しい食べ物にありつけるかもだし!」
「運要素が強すぎな『自由』だけど、まあ楽しそうね」
「じゃあじゃあ、みんなで瀬戸大橋を渡ろう! ね、東郷さん?」
友奈が満面の笑みで美森の顔を覗き込む。
ハンカチを握る手を友奈に握られた美森はその手を見つめ、うなずいた。
「ええ」
かくして一同は、電車を乗り継ぎ渦潮を望む瀬戸大橋を渡り、岡山県は倉敷駅へと向かったのだった。