れんぎょう家
第2投 ~痛いし、ね、ね、ね、寝れないのよ!~
「四国の外に~」 「初上陸ーっ!」  倉敷駅前に着いた勇者部一行。  友奈と園子が快晴の空に向かって両手を広げてはしゃいでいる。 「可愛いわ、友奈ちゃん」 「東郷先輩もブレませんね……」  移動中もずっとビデオカメラを回し続けていた美森。  友奈のビデオブログでも作るつもりかというくらいに、そのフレーム内に収めていたのは九割がた友奈のみだった。 「でわでわ~。サイコロ第二投目の行き先候補、発表なんよ~!」  そうして、園子は皆の気付かぬ間に内容を書き換えた先ほどのボードを紙袋から取り出し、順に読み上げていく。 「サイコロの目、そのイチ~!」 ――①新幹線『こだま537号』【広島】 「そのニも~!」 ――②新幹線『こだま537号』【広島】 「そのサン~!」 ――③岡山空港発『ANA658便』【東京】 「そのヨンも~!」  ――④岡山空港発『ANA658便』【東京】 「そのゴ~!」  ――⑤新幹線『ひかり94号』【名古屋】 「そのロク~!」  ――⑥深夜バス『マスカット号』【東京】 「さっきより選択肢が少ないわね」 「だって~、みんな辛いの嫌って顔してるんだも~ん」  園子が皆の顔を見回して眉を寄せる。  友奈は園子と渦潮を見れたことに興奮している為まだまだ元気。 しかし、他の4人の顔には疲労の2文字が滲み出ている。 「私たちが乗り込んだら急に人が増えて来て……。通勤ラッシュの電車があんな疲れるだなんて」 「大人は毎日この混雑のなか通勤してるのね……」 「ヘトヘトです……」  風、夏凜、樹が口々に深いため息を漏らす。  美森も笑顔で元気な友奈を撮り続けてはいるが、その笑顔に少し『作り』が入っているのを園子は察していた。 「……それにしても、よくできてるな~」 「え? 園ちゃん、何か言った?」 「あはは~、なんでもないんよ~。じゃあ、一気に北海道に近づいてホテルでゆっくりしよー!」  友奈は意気揚々と園子からサイコロを受け取る。そして、またあの音頭でサイコロを振り出そうとして、止まった。 「……ねえ。また私で良いの?」  友奈が皆に尋ねる。 「そうだね~。ゆーゆでもいいけど、せっかくみんなで旅してるんだし、みんなも振ろう~! じゃあ、イッツん!」 「ふえっ! わ、私ですか?」 「イッツんの綺麗な歌声でサイコロ振って~!」 「それ、すごく良い! セイレーン樹の出番だね」 「そ、そんな期待しないで下さい……」  樹は謙遜しながら、友奈からサイコロを受け取る。  そして、樹が園子から何と言いながらサイコロを振るのか指導を受けると、樹は意を決して控えめにスキップをし始めた。 「な、何がでるかな♪ 何が……」 「東郷! カメラ貸しなさい!」  すると突然、風が叫んだ。そして、美森の承諾も間に合わない程の早さで美森からビデオカメラを奪い取ると一瞬にして樹にピントを合わせた。  その姉の姿に樹は少し頬を染めつつも続ける。 「……出るかな♪ それはサイコロ任せよ♪ えいっ」  樹の小さな手から放たれたサイコロは放物線を描き、タイル張りの歩道を転がる。そして、静止したサイコロが出した目は、丸が六つ。 《――⑥深夜バス『マスカット号』【東京】》 「イッツん~……」 これで、ホテルどころか、延べ11時間の車中泊が決定した。  ――途中の休憩ポイント。パーキングエリアにて。  風と夏凜は鬼気迫る勢いで園子が構えるビデオカメラに訴えていた。 「……もうダメよ! 身体が痛い!」 「うんうんうん!」 「腰とか背中とかね。お尻とかね。痛いのよ!」 「痛いし、ね、ね、ね、寝れないのよ! ダメなのよ!」 「このシート、ほんとキツイ……」 「それに、それによ! 東郷がうなされたらしいのよ!」 「私、怖かったんだから! なんか車内から変な声が聞こえるって思って隣見たら東郷が呻いてて。呻きが止まったかと思ったらフッとこっち見て、目が合ったらまた椅子に倒れ込んで呻きだしたのよ! 今までのどの東郷よりも怖かったんだから!」 「フーミン先輩。それ、わっしーには言わない方がたぶん良いですよ?」 「それどころじゃないわよ!」 「私はぐーすかぴ~だったけどな~」 「あんたはどうかしてるわ」  勇者部初めての深夜バス。そのデスロードは終わらない――。
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