「日本の首都、東京にとうちゃ~く!」
園子は新宿駅西口を見上げながら気持ち良さそうに伸びをする。
が、一方の5人は満身創痍の朝となっていた。
「渋滞でバス12時間って……まるで地獄じゃない――」
そう力なくつぶやく美森はベンチで友奈に膝枕をしてもらいグッタリとしている。友奈も倉敷までは元気だったが、流石に疲れローテンションだ。
風も真夜中の美森の呻き声で一睡もできず、目の下にクマができた女子力皆無な状態に。風と共にサービスエリアで限界だと叫んだ夏凜もストレッチを何度も繰り返し回復を試みようとしているが、動きは明らかに重い。
そして、彼女らの疲弊した姿を目の当たりにし、このサイコロの目を出した責任を感じている樹は肉体的以上に精神的に疲弊していた。
ゲームマスターの園子以外は皆、心身共にボロボロである。
しかし、園子はこれぞサイコロの旅といった様子で興奮気味だ。
「さあ~。次、いこうか~!」
「……まだ、やるんですね――」
「北海道に着くまでだからね~。まあまあ、安心して。今回はゴール直行の目もあるからさ~!」
園子が取り出すお馴染みとなって来たボードには、確かに千歳空港直行の目もきっちりと書かれていた。
「サイコロの目、そのイチ~!」
――①もう限界なんよ~【千歳】
「その二~!」
――②地下鉄丸ノ内線【国会議事堂前】
「そのサン~!」
――③東北新幹線【盛岡】
「そのヨン~!」
――④上越新幹線【越後湯沢】
「そのゴ~!」
――⑤東海道新幹線【神戸(逆戻り)】
「そのロク~!」
――⑥中央本線【塩尻】
「国会議事堂ってそんな中途半端な……」
「でも、今回は倉敷と同じで外れ少な目だよ~」
「明らかに⑤が外れだけどね。逆戻りとか……」
「出さなきゃいいのさ~」
「ワタシ、モウフリマセンヨ……」
樹の目からは既に光が失われている。今の園子とは完全に正反対だ。
私が振ってもつまらないという5人には理解しがたい理由から園子は誰かに振って欲しそうに5人にサイコロを差し出し続ける。しかし、誰もそのサイコロを取りに行こうとはしない。
「ここでいい目出したら、イッツんも報われると思うんだけどな~」
この園子の発言にピクッと風と夏凜が反応した。
「妹の仇はやっぱり姉の私が……って、ナニよ夏凜」
「私だって副部長として樹の仇を討ちたいわ!」
「樹は私の大切な妹よ? 妹の無念は姉が晴らすわ!」
「私にとっても樹は勇敢な戦友よ! 無駄死にはさせたくないわ!」
「ワタシ、シンデナイデス……」
「どっちでもいいからさ~。早く振って次行こ~よ~」
結局、サイコロでより小さい数字を出した方がサイコロを振るという、サイコロでサイコロの手番を決めるおかしな状況に。
結果――。
「これが讃州中学2年! 勇者部部員! 三好夏凜の実力だぁ!」
「クッ……!」
夏凜の勝利。夏凜がサイコロ第3投目の権利を獲得した。
しかし、負けて崩れ落ちた風が何かに気付いた。
「ねえ夏凜。あんた、勝ったってことはあの変な歌と踊りしないといけないのよ? アンタにできるのぉ?」
風の表情は実に嫌みったらしい。
案の定、夏凜はムッとなり言い返した。
「なによ! できるわよ! 見てなさい……」
一つツバを飲み込み、ブツブツと何かを唱える。そして、バッと顔を上げると、勢いよく地面を蹴った。
「な、何が出るかな! 何が出るかな! それは……撮るなぁ! サイコロ任せよ、ハイッ!」
風のカメラにツッコみながらも投げられた夏凜のサイコロは無情にも。
「5…………」
《――⑤東海道新幹線【神戸(逆戻り)】》
12時間の長旅をフイにする、3時間で逆戻りの目。
「何の意味もない……。私たちの12時間」
「流石サイコロ! 面白くなってきたんよ~!」
「……ふざけないでよ」
「にぼっしー、それ私の台詞~」
――移動としては3投目にしてようやくまともな移動となった。
その為、園子以外は新幹線内で終始爆睡。ゆうみも・ふういつで肩を寄せ合い、夏凜は涙を流しながら一言「ツライ……」と眠りについた。
「それにしても、面白いの作ってくれたな~」
園子は5人の寝顔をビデオカメラに収めながら満足気にポツリ。
そんな少女たちを乗せたのぞみ号は間もなく新神戸駅へと入線する。