その後、バス・電車と乗り継ぎ、勇者部一同は碁盤の目で有名な街並み広がる京都に降り立った。
ライトアップされた京都タワーがビルの隙間から友奈たちを出迎える。
「とうとう京都に……。ぜひ日本古来の建築や伝統を観て回りたいわ! そのっち、勿論そういう目も用意されているのよね?」
「ちゃ~んと1泊の目も用意してあるんよ~。それも2つ~!」
そして、出されたフリップの内容を見た5人に緊張が走る。
それはまさに、天国と地獄の内容だったのだ。
「サイコロの目、そのイチ~!」
――①寝台特急『あかつき』【佐世保】
「その二~!」
――②寝台急行『きたぐに』【新潟】
「そのサン~!」
――③恐怖~! 深夜バス『ギャラクシー号』【福島】
「そのヨン~!」
――④出さないで~! 深夜バス『ながさき号』【長崎】
「そのゴ~!」
――⑤出して~!【京都1泊】
「そのロク~!」
――⑥おねが~い!【京都1泊】
「ものすごいハイリスクハイリターンね……」
「さっき2つの1泊を逃したし、今度こそ出さないと」
人一倍気合を入れる風と夏凜。もう、あのサービスエリアで訴えるかのような痛い思いはしたくない。というより、ホテルのふかふかのベッドで寝させてくれというのが本音だ。
「じゃあ、だれ振る~? もうみんな1周しちゃったよね~」
「園子先輩だけまだ振ってないと思いますが?」
「ゲームマスターの私が振っても面白くないと思うんよ~」
「でも、みんなで旅行してるんだし、園ちゃんも一緒にドキドキしようよ!」
「そうね。友奈ちゃんの言う通り、そのっちにも賽を振るう責任というものを感じてもらいたいわ」
「そんな~。わっしー、手厳しいんよ~」
と、言いつつも自分も振ってみたかった園子は内心嬉しかった。
園子は彼女独特のリズムで跳んで駆け回り、何度もサンチョとポーズを決めるストップ&ゴーを繰り返す。
「早く投げなさいよ!」
思わず風が突っ込まざる得ないほどに園子は走り回り、ようやくサイコロを放った。京都のネオンをバックに放物線を描いた六面体は50センチほど転がり、斜めに3つの黒丸で止まった。
《――③恐怖~! 深夜バス『ギャラクシー号』【福島】》
「「……――」」
風と夏凜が同時に膝から崩れ落ちた。
友奈、美森、カメラを構える樹も開いた口が塞がらない。
流石の園子もやっちゃったと作り笑いするが、その顔は引きつっている。
「……やってくれたわね」
夏凜が絞り出すようにつぶやく。
「……園子を、潰してやる」
風は闇落ちしている。
「じゃ、じゃあ私、責任もってみんなの分のチケット取って来るから~」
園子は自分へ向けられる2人の殺意に慄き、そそくさと高速バスチケットカウンターへと急ぐ。ふーみん先輩とにぼっしーからは離れた席にしよう――。園子は密かにそう決意しながら購入列に並んだ。
――勇者部一行が乗った深夜バス『ギャラクシー号』が動き出す。
園子は風や夏凜と離れた席を取った。しかし、旧部長&新副部長の権力は絶大で、風と夏凜は園子の近くになるはずだった友奈や美森と席を交換することになったのだ。
「現実世界に戻ったら覚えてなさい……」
薄暗く無機質な走行音のみの車内で風はそう一言呟き、目を閉じた――。