れんぎょう家
第8投 ~あんたは何?サイコロの神かなんかなの?~
 ――山形新幹線内、全員爆睡。  もはや深夜バスの疲れを新幹線で癒すというローテーションができつつあった。  しかし、悲しいかな。それで回復しているのが現実で、大曲駅に降り立った勇者部も若干元気を取り戻していた。 「大曲、寒い! 以上!」 「何もないわね」 「夏場には全国最大級の花火大会で盛り上がるそうですよ」 「じゃあ、夏にまた来たいね!」 「「いやよっ!」」 「というより、夢世界なので来れないんじゃ……」 「次は~、イッツんだね~」  園子はサイコロを正論で先輩たちをまとめた樹に預け、フリップを示す。さすがに8回目ともなればフリップもくたびれて来ていた。 「サイコロの目、そのイチ~!」  ――①開通したて秋田新幹線で~【盛岡】 「その二~!」  ――②奥羽本線で一気に~【青森】 「そのサン~!」  ――③ひとっ風呂あびたいんよ~【乳頭温泉】 「そのヨン~!」  ――④秋田内陸縦貫鉄道で~【阿仁マタギ】 「そのゴ~!」  ――⑤秋田空港発【千歳直行】 「そのロクも~!」  ――⑥秋田空港発【千歳直行】 「④がよく分からないけど、お風呂の目もあるし全部北方面じゃない」 「ついにゲームマスターも限界なのね」 「あはは~」 「さあ、樹ちゃん! 頑張って!」 「何か嫌な予感しますが……がんばりますっ!」  樹は疲れでややトーンダウンしてるも、相変わらずの美声を披露する。 「何が出るかなー♪ 何が出るかなー♪ それはサイコロ任せよー♪ はいっ! …………いちっ」 「あっ……」 《――①開通したて秋田新幹線【盛岡】》 「また『あっ』って、何よ園子。新幹線で着実に進めるんでしょ?」 「いやそれがね、ふーみん先輩……」  園子が再び言いにくそうに時刻表を風の前に差し出す。そこに友奈たち皆も集まった。 「その~、時刻表には秋田新幹線の時刻表が載ってるのさ~」 「あるわね」 「たしかに」 「でもね~」  そう言って皆の背後を指さす。  そこには駅舎に垂れ幕が掲げてあり――。 『秋田新幹線、開業まであと13日』 「ってことは……」 「そう、秋田新幹線はまだ開通してなかったんよ~」 「え? じゃあ振り直しですか?」 「やり直しね、樹もう1回……」  風がサイコロを拾い樹に握り直させようとした時、園子は続けた。 「いや、調べて来るよ~」 「はい?」 「調べるって、何をよ?」 「他に行く手段……盛岡まで~」 「そのっち……そこまで無理しなくてもいいのよ?」 「そうだよ園ちゃん。振り直せば大丈夫だよ!」 「いや~。でもね、ゆーゆ。出しちゃったからには盛岡行かないと~」 「園子……あんたは何? サイコロの神かなんかなの? 絶対に曲げないの? 前々からちょこっと思っていたけど」 「えへへ~」 「褒めてないわっ!」 「とりあえず調べて来るから~。ちょっと待ってて~」  ――園子、聞いて来た。 「バスだって~」 「「「「「つっ……――」」」」」  友奈たち、絶句。 《――①開通したて秋田新幹線改め、代行バスで行く【盛岡】》 「何なの。新幹線乗ったらバスっていうのは変えられない運命なの?」 「ヤッパリ、イヤナヨカン、シテタカラ……」  またもや樹が死んだ魚の目になっている。  悲劇の歌姫・犬吠埼樹。黙々と地面に広げてタロット占いをし始めたが、何度やっても死神のカードしか出て来ない。 「コノタビ、ゴール、デキルノデショウカ……?」 「が、頑張ろう……」  友奈が樹の身体を支えながら励ましていた。  ――盛岡駅へ向けて、2時間20分のバス旅。 友奈と美森は落ち込みっぱなしの樹をあの手この手で励ましている。  一方、明らかにご立腹な風と夏凜を園子は恐る恐るのぞき込んだ。 「怒ってる~?」 「当然」 「言うまでもない」  風と夏凜はノータイムで短く答える。 「まあまあ~、さっきくるみ餅買ったからさ~。はいどうぞ~」 「そんなんじゃ機嫌直んないわよ! ……モグモグ」 「そうよ。なめてもらっちゃ困るわ! ……モグモグ」 「食べてるじゃ~ん」 「「……――」」  2人の表情が少し緩んだ。
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