れんぎょう家
エピローグ
「みんなおはよ~!」  園子の声で友奈たちが目を覚ます。  最後の7時間という長旅を全員がぐったりと伏せていた。 ……はずだった。 「あれ? 戻って来た?」  友奈たちは寝ぼけた顔で辺りを見回し、今の状況を確認する。 服装は浴衣に戻っている。場所も旅館の一室で、布団や枕が入り乱れているのが枕投げ大会をしていた何よりの証拠だ。窓の外は暗く、壁掛け時計は夜の10時を指している。  しかし、さっきまで無かったものが友奈たちの額に付いていた。 「何よこれ? ゴーグル?」 「それね~、ⅤRゴーグルなんよ~。シャキ~ン!」  園子が自分の額に付いたゴーグルで両目を覆うように装着してVサインをしてまた額に戻した。 「ⅤRゴーグル? いつの間に付けたの、そのっち?」 「枕投げの時に、羽毛と一緒に睡眠薬を散布したので~す!」 「あの時か!」  夏凜たちは園子が枕の羽毛を舞い散らせた瞬間を思い返していた。 たしかにあの後から現実世界の記憶が無いと夏凜たちは納得する。 「でも、園子さん。そこまでして何故私たちにこのゴーグルを?」 「それはね~」  そう言うと、園子はゴーグルを入れていたのであろう箱を見せる。 そこには……。 「大赦マーク!」 「これ、大赦製ってことなの?」 「うん。実は今までみんなが見てた『夢世界』は全て、過去の資料や天の神との闘い後に行われた実地調査を基に作成されたバーチャルリアリティー。……わっしーに分かり易く言うなら、仮想空間をみんなに見せていたのさ~。だから、『夢』でも間違いではないでしょ~?」 「え、じゃあ何。今まで私たちが息絶え絶えになりながらサイコロ振って旅した場所って、全部作り物ってこと?」 「そういうことだね~。でも、資料や実地調査だけでみんなの五感を刺激しながら体験できるものを作り上げられたのは大きな成果だよ~。本当は過去の日本なのに、未来の日本と嘘をついたのは謝るけど……」  園子が申し訳なさそうにしながらも、チラッと美森に微笑む。  美森も園子が言わんとしていることを察して微笑み返し、口の動きだけで『ありがとう』と返した。 しかし、風は複雑そうな顔をしている。 「未来って言われた方がウチらとしても気が楽だし、そこを指摘するつもりはないけど……。確かに、五感を刺激されながらあれだけの地域に行くことが出来るのはすごいことよ? でも、その分、身も心も相当削ったのも事実。大赦と通じてる園子は良いかもだけど、これ、私たちからしたら勝手に実験台されたってことよね?」  実験台……。  その風の言葉に、一同が息を飲む。  また自分たちは大赦に利用されたのか。勇者というレッテルは良くも悪くも剥がれることなく、この先も利用され続けるのか。  不安と不信感が再び募り始めたその時、桜の少女の言葉が、笑顔が、空気を大きく入れ替えた。 「んー……。なんか、バーチャルなんとかって難しいことはよく分からないけど、私は楽しかったなー。いろんな所に行っていろんなものを食べて、昔の人もこんな風に大変な中でも楽しく暮らしていたのかなって。この『夢世界』をもっとたくさんの人に体験して欲しいな。もしかしたら、嘘から出た実で園ちゃんの言う通り私たちの未来があんなのかそれ以上になるかもなんだよ! 今から楽しみだよね!」  曇りのない眼で愉快に未来を語る友奈。  今を楽しく、幸せに生きることを語る友奈。  そんな彼女が今、自分のともだちで良かったと皆が思っていた。 「友奈ちゃん、そんな難しいことわざよく知ってたね」 「えへへー。東郷さんの小説読むために勉強した成果かなー?」 「ゆーゆは努力家だね~」  美森と園子が友奈の頭を撫でる。友奈も褒められ嬉しそうだ。  すると、風が枕2つを合わせてバフバフと叩く。 「友奈の言う通りね。うん、夢世界のことはもう良いわ。……さて、さっき途中だったし、枕投げ再開するわよ! 深夜バスの恨み、しかと受け取りなさい園子!」 「かかってきんさい!」  園子も枕を2つ手に取り迎え撃つ構えだ。 「樹、私たちも新部長副部長コンビでいくわよ!」 「はい! 夏凜さん!」 「東郷さん、私たちも!」 「もちろんよ、友奈ちゃん!」    少女ら一人一人、1/6の勇者。  彼女らは、これからも夢旅人として未来へと旅を続ける――。
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