サブカル科学研究会
イタズラ、あるいは祟り
私と男は大学の同期で、職場が近いこともあってよく一緒に飲みに行くのだった。 暫く飲んだ頃、彼は言った。 「最近、線路に置き石が増えてるんですよ。」 飲みの店でそういう男は深刻な顔をしていた。 「置き石って、あれかい?線路に石ころをおいてい電車が弾き飛ばすのを楽しむってヤツ。」 「そんな悠長な感じではないんですよ。電車は脱線リスクが高まるし、弾かれた石が誰かにぶつかるかもしれない。そうしたら怪我ではすみませんよ。イタズラでは済まされない。」 そういう彼は義憤に駆られている様子だった。 私は頭のギアを一段階上げて、愚痴を聞く態度から相談に乗る態度へと変えた。 「あなた、こういうガジェット系に強かったじゃないですか。何かいい案はありませんか?」 「そうさなぁ、めぼしい場所に心当たりはあるのかあ?」 大体場所はいつも同じですね、と彼は言った。 なら定点カメラでいいだろう。それを安価に複数の地点に揃えて監視することで犯人の情報を集めることが出来る、と私は算段をつけた。 「今どきはカメラも安価なものが揃っているから、とりあえず証拠画像を集めてみてはどうだ?」 「カメラって数万円はするんじゃないですか?」 彼は眉根をひそめた。あまり潤沢な予算があるわけではないらしい。 「いやいや、安いのなら2000〜3000円からあるよ。」 「それなら予算申請も通りそうです。」 彼は安心したようだ。 早速予算申請をして、カメラを揃えるつもりのようだ。私は彼のカメラのセットアップ手伝うことにした。 やがて彼はカメラを設置し、動画を確認することになった。 「カメラに何か写ってますよ。」 「これは、なんだ、カラス?」 画面では小さな黒い影が線路の近くをちょんちょんと飛び、線路の上に何かを置いて、やがて去っていった。 「カラスじゃ責任は問えないな。どうする?」 「カラスよけでも予算の申請をしときますかね。」 人のイタズラの線が消えたので、私たちは安心した。 「うん?これはなんだ。」 カメラの画像には白い服の人間と思しき存在がじっとカメラの方を見ていた。 「おい、さっきまでこんなのあったか?人のイタズラもあったのかもしれないな。」 私が彼に尋ねると彼の顔色が真っ青になっていた。 「おい、どうした。」 「誰ですか、これ。前に確認したときにはこんなの居なかった。」 白い存在はじっとカメラの方を見つめて動かない。 しかし、画質の問題か顔がよく分からない。 目を細めてじっと画面をみていると、急に白い存在はカメラの方を指さした。そして早回しのようにカメラに近づいたかと思うと、画面いっぱいに口が写った。 驚きのあまり思わず声が漏れた。 彼などは声すらでない 様子だった。 彼からカメラに視線を戻すと、カメラは線路を映しているだけだった。 「な、なんだったんだろうな。」 「職場の先輩に聞いたことがあります。」 「夜中に線路点検をしているとき、絶対に一人ではいけないと。白い服のヤツに襲われるから。」 いや、大丈夫だろ、という私の言葉は彼にかけられたものか、自分に言い聞かせる為のものか。 「…一緒に見てくれてありがとうございました。調子が優れないので今日はこれで。」 そういって見送った彼は帰り道に車にはねられたらしい。
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