僕は幼い頃、引っ込み思案な子どもだった。
そんな僕を引っ張って一緒に遊んでくれる友達が居た。彼女と遊んでいるときは僕もとても楽しくて、でもどうしても親のことを忘れることは出来なかったから。
彼女はいつも元気いっぱいで、服を汚しては親に怒られていた。
「たまにはこんな日もある!」
が口癖だった。
僕はとてもそんなことは出来なかったから、そんな彼女がうらやましかった。だから僕は彼女につり合うだけの男になろうと決めた。
高校に上がるころには僕は人見知りをだいぶ解消出来ていた。カミを明るく染めて、人当たり良く立ち振る舞い、友達も増えた。一方で彼女とは疎遠になっていた。
彼女は校則に違反するような金髪にピアスと反抗的な態度で腫れ物扱いだった。家庭の事情があるからと、教員達は見て見ぬふりをしていた。
そんな彼女のことが気になりつつも、僕はこれといった行動に移せないでいた。
雨の日の放課後、部活が終わった後に下足箱に向かうと彼女がいた。小学校のころ以来話したことがなかったが、意を決して話しかけて見ることにした。
「あの、どうかした?」
「ん?ああ、おまえか。久しぶりだな。」
そういってあいまいに笑う彼女はらしくないと思った。見ると彼女は制服を泥まみれにしていた。
「傘を忘れちまってよ。でもこの雨だろ。どうしたもんかとおもってねぇ。」
雨は激しく振っており、確かに傘無しではとても帰路につくことは出来そうにない。
しかし、彼女がここでじっと待っていたのには他の理由があると直感した。
「傘、どうしたの?」
「いや、それがどうも、忘れちまったみたいでさ。」
嘘だ。今日は登校の時から雨が降っていた。今日の授業中には彼女はあまり濡れていなかったので、おそらく登校時には何かしらの雨具があったはずだ。
「もしかして、イジメ…。」
「ちげーよ!…ちげーよ。」
彼女が虐められていると知ったのはその時だった。女性同士のイジメと言ってもよくあることだ。それも女性社会なら男の僕が立ち入ることなど出来はしない。
それでも彼女の為に力になりたいと思った。
「奇遇だね。僕も今日は傘を忘れちゃったみたいだ。一緒に濡れて帰ろうか。」
何の助けにもならないと知りつつも、そんな言葉が出てきた。
「おい、傘無しで帰ったらずぶ濡れになるぞ。」
「たまにはそんな日もあるよ。ほら行こう。」
そういって彼女の体を腕でかばいながら、雨の下校道に繰り出した。
「いいのかよ、そんなに汚れちまってよ。」
「たまにはこんな日があってもいいのさ。」
久しぶりに話せたな、と思う僕の気持ちはおそらく彼女には伝わっていない。それでも彼女に対して僕の方から一歩を踏み出せたことが嬉しかった。
たしかにたまにはこんなのも悪くないな、と泥にまみれて笑う彼女は美しかった。