白昼夢。のような白菜の葉っぱについている
小さな虫を、殺してやりたくはなかったから、
ベランダに逃がしてやろうと思って、夜、葉
っぱごと千切って、置いた冬、今朝は雨。で、
娘から聞いた、死んでいたよって、聞いたと
きに、殺したのはぼくなのか、白菜なのか、
白昼夢のような世界なのか、分からなかった
けど、実際に命が終わる瞬間の光景を目撃し
ていたのは事実であって、屁理屈であって、
詩を書いているときに、ふとそのことを思い
出して、こうして文字にすればするほど、ぼ
くはあの虫を死なせたのは自分なのではない
かという気持ちが強くなって、雪。が降る中、
瞑想でもしようかと、いや、待てよ……。終
わったんだ、もうすべてが、バレンタインも、
青春も、言葉を知らなかったあの頃も、心が
折れたあのときのあいつの言葉も、終わった
んだ、そう電話。をかけたとき、ワクチンの
話になって、ぼくはさんかいめのわくちんは
しんどいからうちたくないと思って、切。っ
て、その放心状態の部屋の中に浮かび上がっ
てくるものは、ブルーライトの光と、月明か
りと、抑えていたはずの性欲と、その手段と、
目的と、理想的な未来と、改竄したい過去。
と夢見がちな乙女と、肋骨と、くたくたにな
った白菜の煮物を箸でつつきながら、探そう
と思うんだ、あの虫を、まだ、どこかで、生
きているような気。がするから、この、世界
の、どこかで、どうにかして、まだ、まだ、
きっと、まだ、生きている気が、忘れられな
くて、言葉と、詩と、歌と、空気の摩擦と、
噴火する直前の火口のように、みなぎってい
る心の奥底にあったはずの、思い出。の彼方
の、カケラ……探して、愉快に、歯痒く、惨
めに、醜く、みっともなく、夢を見させて、
夢のカケラと、白昼夢の果てに。