0<1
1と0の複合した電子の海底で人々は生きていた。
その人の創った世界こそが意味を持つそんな世界に人は歓喜した。
意味のわからぬ世界から、人間が創り出した意味があることしかない世界への
インポートを誰も拒絶しなかった。
そして通貨はその世界を指し示していた。
その世界の中で、稀な通貨価値を持たぬ少女は一人歩いていた。
「う……う……」
もう何日も栄養を摂取していないのか、所々が消えかかっていた。
ちなみに、人々は一定期間、電子交換をしないと電子クズとなり、この電子の海の
一部となってしまう。
彼女の意識は朦朧とし、世界はぼやけ、電子頭痛は激しく、もう生も途切れそうだった。
その少女の視界も緑色から赤色になり黒くなった時、少女は死を受けいれていた。
そこに声が聞こえた。天使の声でも悪魔の声でもなく電子音声が頭脳に駆け抜けた。
「おい、大丈夫か。いまディバイドしてる最中だ。そっちに俺の腕をくれてやった。
ERC100900の型だったが特に問題なかったようだな」
男は少女の身体を揺すっていた。
「あ……はい」
少女の視界はもう今まで通りの緑色の世界だったが、困惑して何も言えなかった。
「え?どうして助けたって? このままにしてたらお前、電子の海にきえちまうぞ」
「……わからない、そういう道理でしょ、この世界は。私ももう電子分解されても構わなかった」
「お前まだ、若いじゃないか。そんなガキん時から価値を持とうってのが間違ってんだ」
「でも世界はそういうものじゃないの」
「じゃあもう死ぬのか」
「……私の両親は死んでしまった、価値も持たなくなって電子クズになってしまった。
だけど、親は優しくされたら優しく仕返しなさいって。だから……あなたに優しくするまで
私は死ねない」
「……そうか。お前の身体が成熟したらまたそんときに分けてくれ」
男の腕だった部分は白い電子煙が立ちのぼり、電子の海に消えていった。
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