sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.8
これからの3ヶ月間はモグラ生活そのものである。 モグラの方がマシかもしれない。 まず最初に鼻がなくなる。耳がなくなる。次に目。脳。そして最後に心臓。 つまり、匂いが分からなくなり、音が聴こえなくなる。次に光。希望。そして…命。 外壁に面した部屋は徐々に霜が付き凍り始める。 手足が痛くなり凍傷症状が出始めるとノーマン達は施設の内へ内へと移動していく。 その頃には施設は雪に埋もれてつつある。 人の手による除雪は、海の水を全部汲みあげるようなものだ。 サプリメントでの食料は排泄が少なくて済む。 尿は人間と同じ位の量だが、便は一週間に一度か二度で済む。 排泄物すら貴重な資材。排泄物の匂いはアザラシや鳥などを呼ぶ為に欠かせない。 魚を採る撒き餌や餌にもなる。 だが外に棄てる事が出来ないので、凍りつき住めなくなった部屋がトイレとなる。 その異臭が鼻を壊す。 雪の重みでミシミシと施設のあちこちから軋む音。 ノイズのようなブリザードの風の音。 シクシクと泣く声。 24時間、3ヶ月続く。 この音に耐えきれず耳を塞ぐ。 光もそろそろ無くなる。 太陽の出てる間に充電した電気は切り詰めても一ヶ月しかもたない。 それに発電機が寒さで壊れる前に止めるからだ。 コケに、ペリカンやアザラシから採取した脂肪を混ぜた燃料で灯かりをともす。 火は暖をとるためでなく灯かりのためにある。
ギフト
0