sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.11
5回この地獄を体験したドミトリーですら気が狂いそうになる。 彼にも幻聴が聴こえる…風の音が聞こえなくなる幻聴が。 外の様子は風の音で判断する。 [おい。風が止んでるぞ!] ドミトリーは隣に横たわっているドクターに声をかけた。 ドクターは悲しそうに首を横に振った。 ドミトリーが毒づくとドクターが慰めの言葉を言った。 [お前さんが幻聴を聴くとそろそろ本当に冬が明けるぞい] ドミトリーは信じなかったが、それは本当の事だった。 それから一日後か一週間後か一ヶ月後か分からないドミトリーだったが、風の音は確かに弱まりつつある事に気付いた。 部屋にいるノーマン達も頷く。 ドミトリーはドクターに期待の目を向けた。 ドクターはモゾリと起き上がると壁の霜を乱暴に拭き取り、耳をあてた。 ドミトリーと他のノーマン全員がドクターに期待の視線をぶつける。 壁から耳を離したドクターは言った。 [いつでも動けるように、ゆっくりと身体をほぐしておけ] 歓声があがった。 皆の思いは1つだった。 [あぁ…生き延びた] その日はドミトリーが幻聴を聞いてから12日後の事だった。
ギフト
0