5回この地獄を体験したドミトリーですら気が狂いそうになる。
彼にも幻聴が聴こえる…風の音が聞こえなくなる幻聴が。
外の様子は風の音で判断する。
[おい。風が止んでるぞ!]
ドミトリーは隣に横たわっているドクターに声をかけた。
ドクターは悲しそうに首を横に振った。
ドミトリーが毒づくとドクターが慰めの言葉を言った。
[お前さんが幻聴を聴くとそろそろ本当に冬が明けるぞい]
ドミトリーは信じなかったが、それは本当の事だった。
それから一日後か一週間後か一ヶ月後か分からないドミトリーだったが、風の音は確かに弱まりつつある事に気付いた。
部屋にいるノーマン達も頷く。
ドミトリーはドクターに期待の目を向けた。
ドクターはモゾリと起き上がると壁の霜を乱暴に拭き取り、耳をあてた。
ドミトリーと他のノーマン全員がドクターに期待の視線をぶつける。
壁から耳を離したドクターは言った。
[いつでも動けるように、ゆっくりと身体をほぐしておけ]
歓声があがった。
皆の思いは1つだった。
[あぁ…生き延びた]
その日はドミトリーが幻聴を聞いてから12日後の事だった。