一ヶ月も経つと不思議な事に、地獄の辛さは無くなっていく。
新鮮な空気や太陽の光のありがたさが、当たり前になっていく。
ドミトリーの決断が鈍っていく。
あんなに決意した願いが、雪のように溶けていく。そして埋まっていた不安や恐怖が顔を出す。
施設に閉じ籠り、鼻と耳と目を失いつつ、心も失われそうな三ヶ月間、ずっとそれだけを考え続けてた。
この極寒世界からの脱出。
人間世界への帰還。
計画はユーリ地区に来てからずっと練っていた…無謀だが可能性はゼロではないはず。
だが実行する季節になると、温かさが気力を萎えさす。
そんなこんなでズルズルと気付いたら5年も経っていた。
地獄の三ヶ月を体験したノーマンは、その三ヶ月以外は穏やかな日々になる。
退屈はしない。
数日かけて狩りに出掛けたり、新しいノーマン達が来たら人間世界の話を聞く。
体力は雪かきや墓標の処理や設置で充分につく。