sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.30
シェルターに2人寄り添うように寝転び、寒さをしのぐ。 風の音以外は何にも聴こえない。 ドクターが退屈しのぎに言った。 [あの時は、ああするしかなかったんじゃ] ドミトリーは答えた。 [あぁ、分かってる] あの時とは、ドクターが1人のノーマンを後ろから刺し、クマのイケニエにした時の事である。 自分が生きる為に周りを、同種族のノーマンの命すらも利用する事は、ごく当然な世界。 善悪も罪も道徳もない。 ドミトリーも情けでドクターの回復を待ってるわけではない。 ドクターを置いて一人で前に進む事も出来た。 気候がいつ変わってもおかしくはない世界。 ましてや冷気は下に下に降りてくる。 この場所は斜面のすぐ真下。 本当なら、すぐに斜面に登るべきはずなのだ。 だがそれをしないのは、雪の世界で生き抜いてるイヌイット族のドクターの力が、ドミトリーには必要だからだ。 斜面を少しだけ登り、散らばったフードサプリや荷物を捜す。 斜面に上がりきれば死体からフードサプリは楽に回収できるはず。 心配なのは天候だけだった。
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