シェルターに2人寄り添うように寝転び、寒さをしのぐ。
風の音以外は何にも聴こえない。
ドクターが退屈しのぎに言った。
[あの時は、ああするしかなかったんじゃ]
ドミトリーは答えた。
[あぁ、分かってる]
あの時とは、ドクターが1人のノーマンを後ろから刺し、クマのイケニエにした時の事である。
自分が生きる為に周りを、同種族のノーマンの命すらも利用する事は、ごく当然な世界。
善悪も罪も道徳もない。
ドミトリーも情けでドクターの回復を待ってるわけではない。
ドクターを置いて一人で前に進む事も出来た。
気候がいつ変わってもおかしくはない世界。
ましてや冷気は下に下に降りてくる。
この場所は斜面のすぐ真下。
本当なら、すぐに斜面に登るべきはずなのだ。
だがそれをしないのは、雪の世界で生き抜いてるイヌイット族のドクターの力が、ドミトリーには必要だからだ。
斜面を少しだけ登り、散らばったフードサプリや荷物を捜す。
斜面に上がりきれば死体からフードサプリは楽に回収できるはず。
心配なのは天候だけだった。