sadojam 小説
南極ユーリ保護地区.33
ここら辺に基地はあるはず。 だが行けども雪と氷しかない光景。 ついさっき歩いた場所だったんじゃ?…そんなデジャヴ感(既視感)すら感じる。 [この向こう側かな?] ノーマンの1人が左手にある急な勾配の丘を指しながら言った。 これを登るのは、疲労した身体にはかなり苦しい。 他を見渡す…全く平坦でどんなに目をこらしても白。白。白。 太陽が沈むのはまだ先。 ドミトリーはドクターに一瞬、視線を向けた。 ドクターの目は[任せる]…同意の意味が混(こ)もってた。 気力を振り絞り登る事を決めた。 足を踏み外したら滑り落ちるだけ。 落ちても怪我の心配は全くない。ただ、再び登ろうと思う気力がなくなるだけだ。 ゆっくり一歩ずつ、這うように丘を登る。 登るコツは、未来の希望を持たない事だ。希望を持って登り、もしそこに基地がなかったら…。 考えていいのは、ただ目の前の一歩だけ。足を上げる作業だけを考える。 ゆっくりと左右の足を交互に上げていく。その作業を繰り返す。
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