ここら辺に基地はあるはず。
だが行けども雪と氷しかない光景。
ついさっき歩いた場所だったんじゃ?…そんなデジャヴ感(既視感)すら感じる。
[この向こう側かな?]
ノーマンの1人が左手にある急な勾配の丘を指しながら言った。
これを登るのは、疲労した身体にはかなり苦しい。
他を見渡す…全く平坦でどんなに目をこらしても白。白。白。
太陽が沈むのはまだ先。
ドミトリーはドクターに一瞬、視線を向けた。
ドクターの目は[任せる]…同意の意味が混(こ)もってた。
気力を振り絞り登る事を決めた。
足を踏み外したら滑り落ちるだけ。
落ちても怪我の心配は全くない。ただ、再び登ろうと思う気力がなくなるだけだ。
ゆっくり一歩ずつ、這うように丘を登る。
登るコツは、未来の希望を持たない事だ。希望を持って登り、もしそこに基地がなかったら…。
考えていいのは、ただ目の前の一歩だけ。足を上げる作業だけを考える。
ゆっくりと左右の足を交互に上げていく。その作業を繰り返す。